3016 “もう一つの中国”への旅(旅256)
【知道中国 3016回】二六・六・十
――“もう一つの中国”への旅(旅256)
書き忘れていたが、じつは緬甸臘戍明徳(五戒)学校では「中国海外交流協会が北京語言文化学校に委託し、海外華僑・華人学生が漢語を学習するために編集し、海外全日制華文学校の小学1年生から6年生までの使用に供する」(前言)ために編まれた中国語教科書の『漢語』を使っていた。もちろん、こちらもコピー版ではあるが。
じつは中国海外交流協会は中国政府部内で華僑・華人対策を実行する国務院僑務弁公室の下部機関で、文化事業を通じて海外の僑社(華僑・華人社会)への交流事業を進める目的で1990年に設立されている。ということは、率直に言うなら『漢語』は、たんなる現代中国語教科書ではなく、中国当局が一定の意図を持って華僑・華人若年層を対象にした言語を通じての統一戦線工作の手段と捉えるべきだ。
そんな背景を持つ『漢語』を、中国政府とは相容れない「中華民国正統史観」を掲げる緬甸臘戍明徳(五戒)学校が使っている。この辺りの“矛盾”をどう捉えたらいいのか、と姜校長に質したが、予想に違わず、もののみごとにはぐらかされてしまった。やはり、それ相応の事情がある、ということだろう。その一端を問わず語りに語っていたのが「昆明南洋(国際)学校」の生徒募集のポスターだったように思う。
そのポスターの上半分には紺碧の空を背景に緑の芝生のグランドを前景にして建つ白亜の校舎――キャンパス全景だろうか――が配され、「造就国際化人材(国際化人材養成)」のキャッチコピーが躍る。さらに「中国の西南地区では施設・教育内容が最も整った最高ブランドの国際的有名校/中英バイリンガル教育(ミャンマー語を含む)、コンピューター教育/アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアへの直接留学可能/ミャンマー学生鄭菊恵、清華大学合格」と教育の内容と成果の一端が示されている。
最下段には大きく、「幼児・小学・初中・高級中学生(華僑・華人子女)を常時募集。ミャンマー・タイ学生募集総代理:張継先生」とあり、昆明、国境関門の瑞麗、それにマンダレーに置かれた事務所の電話番号が記されている。
このポスターにどれほどの“信憑性”があるのかは判然としないが、雲南省で国際化人材養成を掲げる学校がラシオで留学生募集活動をしていることは紛れもない事実であり、それだけの需要と経済力がラシオにあるということだろう。
どうやらラシオの街中に張られていた1枚のポスターから、中国社会の変化、共産党政権の華僑・華人政策、イデオロギーと実利の相克などが絡み合ったミャンマー東北の山峡の“小さな中国”の現状が浮かび上がってくるようだった。
学校を後に観音寺に。何棟かの寺院が山の斜面に階段状に連なって建っていて荘厳な雰囲気を漂わせている。最上部の本堂の回廊に立つと、シャン丘陵の山々を背景にラシオの街が一望できる。さすがにミャンマー最大の漢族系仏教寺院といわれるだけのことはある。
国共内戦が勃発した1946年に創建され、その後に何回か改修・増築が繰り返されたとのことだが、目の前の観音寺の荘厳で煌びやかさと規模の大きさから考えても、ラシオの名もない“善男善女”が持ち寄った浄財程度では賄えるはずもないだろう。ではいったい、どこの、誰が莫大な資金を寄進したのか。ここは観音寺を軸にした国境を越えた中華系仏教ネットワークが働いていると考えるのが、やはりいちばん現実に近いはずだ。
山門の前はコンクリートで固められた広場になっていて、時に移動遊園地が開かれるらしい。山門に壁に貼られたA4大の紙には、墨痕鮮やかに「厳禁賭博」の漢字4文字が記されている。ということは、どうやら中国語を解するゴ仁が境内でヒッソリとではなく、恒常的に堂々とバクチに興じている。風紀のうえからヨロシクナイ。そこで観音寺側が貼り出したのだろう。三つ子の魂百までも。まったくヤレヤレ、である。《QED》
