3005“もう一つの中国”への旅(旅245)
【知道中国 3005回】 二六・五・仲七
――“もう一つの中国”への旅(旅245)
前掲『ナルコトピア 東南アジア“黄金三角地帯”の麻薬国家「ワ州」を追う』はラシオの街の佇まいを、「ビルマによくある典型的な二流都市のようだった。コンクリートの壁を伝って葉を茂らせた蔓。錆びてコーヒー色やオレンジ色になったトタン屋根。インスタントコーヒーや翡翠の色褪せた看板。積もった埃が街並みをうっすらとセピア色に染めている」と記す。それはそうだが、やはり中国世界が色濃く感じられた。
ラシオに近づくにつれて漢字の看板がいよいよ多くなる。中でも「宏邦(集団)有限公司」の看板がヤケに目につく。同社が、かのゴールデン・トライアングル(黄金三角地帯)最大の麻薬集団のダミーでマネーロンダリング部門を担っていることは公然の秘密。
マンダレーから10時間ほどでラシオ到着。予定の12時間より2時間ほどの短縮であった。先ずはホテルに荷物を置いて、街に飛び出した。
と、その前に、ホテルのロビーの壁に利用客の誰もの目に入るように、大きく書き出された厳禁事項について記しておかなければならだろう。旧字体漢字・縦書きで「食事」「飲酒」「外部女性の無断宿泊」「賭博」「麻薬吸引」は「厳禁」と書かれていた。
ということは、その種の公序良俗に反する行いが常態化していて目に余るがゆえに「厳禁」措置を取る。にもかかわらずおこなわれているから「厳禁」、ということだろう。
ここで思い起こすが、かつての中国(「旧中国」)で天下公認の男の嗜みとして挙げられていた「吃喝嫖賭抽大烟」の漢字7文字である。つまり料理(「吃」)、酒や茶(「喝」)、女遊び(「嫖」)、賭博(「賭」)、それにアヘン(「抽大烟」)。時にアヘンに代って芝居(「去聴戯」)を数えることもあるが、芝居にしたところで昂じれば淫し、さらには昂ずれば身を持ち崩し家財も家族も失ってしまう域にまで踏み込むことになりかねないわけだから、アヘンは芝居と同類といったところか。
ホテルロビーの壁に誰の目にも入るように「吃喝嫖賭抽大烟」は「厳禁」と示されているということは、やはりその種の公序良俗に反する行いが止まない。そこで「厳禁」となったと考えられるが、どう考えても「厳禁」の2文字でホテルの雰囲気が一気に“健全化”するわけはないはずだ。たとえば「抽大烟」を取り上げても、ラシオの東方から南方に広がり中国・ラオス・タイと国境を接する一帯は麻薬製造を主産業とする「黄金三角地帯”の麻薬国家『ワ州』」の心臓部であり、であればこそ「大烟」の流通に事欠かないことは容易に想像できる。
中国では「佤邦」と呼ぶワ州を、ミャンマー政府は「シャン州第二特区」と呼ぶが、中央政府の実効支配は及ばない。前世紀末期から今世紀初頭まで「麻薬王」として名を馳せたクンサー(張奇夫)にしてもローハンシン(羅星漢)にしても、ワ州を基盤にしていた。いや、この一帯で大量に栽培されるケシから製造されるアヘンが産み出す財力が、彼らの権力と軍事力の根源であることはいうまでもない。
ここで、中国と国境を挟んだ山がちの上に民族がモザイク模様に入り乱れ、利害関係が複雑微妙に絡み合った一種の「部族地域」とでも呼べそうな一帯の政治状況を整理しておく必要があるだろう。もちろんビルマと呼ばれていた時代から、この一帯に中央政府の統治が及ぶことはなかった。いいかえるなら、ここの住民はミャンマー(あるいはビルマ)という「国民国家」に統合されることを一貫して拒否してきた、というわけだ。
雲南省の国境線がオウムのクチバシのように入り組んだ辺りに対するのが①カチン第1特区(カチン族は国境を挟んだ中国側の景頗族と同族)。以下国境に沿って南下し②シャン州第1特区。③シャン州第2特区。④シャン州第4特区(一部ラオスと接す)となる。なお③は南北に2分され、南部は④の南方で北タイとの国境沿いに位置する。《QED》
