【知道中国 430回】 一〇・八・仲三
――アピシット政権下で愈々進むタイの中国への傾斜
7月16日、アピシット政権内にあって反政府赤シャツ陣営に対して最も強硬な姿勢を貫いてきたステープ副首相が中国旅行に出発した。家族同伴に加え上海万博見学も日程に組まれていたが、外務大臣秘書、民主党下院議員、民主党総幹事に加えウィーラチャイ(李天文)科学技術大臣が同行するとなれば、たんなる観光旅行であろうはずがない。
伝えられるところでは、中国共産党の招待を受けたものであり、主たる訪中目的は同党主催によるアジア太平洋政党合作会議への出席とのことだ。出発前の空港で記者団に向かって同副首相は、中国滞在中に中国共産党及び政府の要人との間で、タイと中国の2国間の懸案――①貧困対策、②科学技術交流、③中国観光客のタイへのさらなる受け入れ、④タイ国内高速鉄道網建設にかかる投資――について話し合うことを明らかにした。19日にはポスト胡錦濤の有力候補の1人である李克強副首相と会談している。
ここで注目しておきたいのが、①アピシット(袁順利)首相も試乗経験のある北京・天津間の高速鉄道への試乗。②鉄道網建設に関する投資交渉につき明らかにされたアピシット首相の強い指示。③タイ国内高速鉄道網整備・建設計画を昨年来推進してきたウィーラチャイ科学技術大臣の同行――である。
じつは6月末、タイ政府はバンコクを起点に北部のチェンマイ(745Km)、東北部のノンカイ(615Km)、南部のハジャイ(937Km)、東部のラヨン(221Km)をそれぞれ結ぶ高速鉄道建設方針を打ち出している。総予算はバンコク外環高速道路建設(207億バーツ)を含め7000億バーツ規模になるようだ。そこで、これらプロジェクトと今回のステープ副首相、ウィーラチャイ科学技術大臣の訪中を関連づけて考えてみたい。
それというのも8月11日、タイ中鉄道運輸共同発展委員会で主席を務める首相秘書官長がバンコク・ラヨン間の高速鉄道建設計画を明らかにしたからだ。ラヨンは東部臨海工業地帯の中心であり、総事業費1000億バーツ規模ともいわれる同計画は、一帯の大都市化が視野に入っているとも伝えられる。80年代後半から90年代前半の間にみられたタイ経済の高度成長期、同工業地帯の中心として位置づけられたラエムチャバン深海港建設を軸にインフラ整備が進み、かくてバンコク東郊の貧しかった沿岸漁村地帯は東部臨海工業地帯へと大変身を果たし、タイ産業・経済の牽引車に姿を変えることとなった。80年代半ば以降、有償・無償にかかわらず日本からは莫大な政府援助が投入されたことも、また事実。
同時に首相秘書官長は、ラオスの首都であるヴィエンチャンとメコン河を挟んで位置するノンカイを基点に、コーンケン、コーラートなど東北タイの主要都市を経てバンコクに繋がり、さらに南下してマレーシア国境のペダンぺサールに至るという南北を縦断する総延長1700キロ、総工費3000億バーツの第2次タイ中共同鉄道網整備・建設計画を策定中であり、一連の計画は今月20日には国会に送られ審議された後に調印され実行に移されるであろうことも明らかにした。
かりにタイ南北縦断高速鉄道が完成した場合、中国(雲南の昆明、あるいは広西の南寧)を起点に、ラオス、タイ、マレーシアを縦断しシンガポールまでが鉄道で結ばれることとなるわけだ。まさに中国主導による東南アジア大陸部高速鉄道網建設は着実に進捗中だ。
東南アジアにおける“日本外し”の一環ならば・・・これを杞憂と笑う勿れ。 《QED》