【知道中国 399回】                      一〇・六・初四

――あなたも韓国美女になれるかも・・・よ
愛国主義教育基地探訪(4-08)



 大黒河島から戻り、黒河の市街を歩く。

 最初に目に付いたのが黒河第一人民病院の大きなビル。中に入ってみると、廊下から中の診療風景がまる見え。プライバシーも個人情報保護もあったものではない。広い待合室は多くの患者で埋まっている。日本でも見慣れた病院風景だ。正面玄関を背にすると広い駐車場の先の商店街には瑞祥、寿瑞、譲民などメデタイ名前の「寿衣店(葬儀屋)」が並ぶ。もちろん、寿衣店は病院ビルの一角にもあった。

 中を覗くと棺材(棺桶)、骨灰盒(骨壷)、寿衣(経帷子)に加え竹ヒゴと紙でできた車や家電製品が並べられていた。これら紙製の車や家電製品の模造品を焼いてあの世に送り、ご先祖サマに使って戴くという仕掛けだ。この世の生活が近代化し便利になればなるほど、あの世でもモダンな生活が送れるということになる。ゴ先祖サマと子孫との“交流”の、なんともほほ笑ましくも即物的なことよ。

 あの世は、この世と同じ仕組み。やはり役人が威張っていて、カネ次第だ。これが中国伝統の《あの世観》ということになる。さて文革時代、寿衣店では“あの世用“の『毛主席語録』を売っていただろうか。こんな霊験あらたかな書物をゴ先祖様にも読ませたいと思ったところで、ご先祖サマに届けるためには焼いて煙としなければならない。だが、そうしたら焚書だ。寿衣店製の『毛主席語録』といったところで『毛主席語録』は『毛主席語録』だ。まさか焚書はできないだろう――たわいもないことを考えながら寿衣店の窓に目をやると、そこには、「廠家直銷(工場直売)」「喪事詢問(ご相談応じます)」「剃頭刮臉/穿衣(化粧と装束)」「上門服務(お宅に参上)」「快速翻相(遺影速成)」「現代寿衣(現代経帷子)」と営業内容が4文字で書き連ねられていた。

 はたして不治の病を抱えた患者は病室の窓から寿衣店街を眺めながら、その時を待つのだろうか。体調が回復し、病院内を散歩しながら、寿衣店でウインドーショッピングしたり店内をひやかしたり・・・。中国では患者もまたタフでなければ務まらないようだ。

 さらに街を歩くと、宣伝ビラを配っている。ここでも携帯電話の販売合戦だ。1台買ったら電気炊飯器、電気蒸し器、自転車などが景品として付いてくるとか、もう1台は無料ですとか、大型最新冷蔵庫が当たりますとか、アップルのiPhoneをサービスしますとか、ともかくも派手なビラばかり。それほどまでに熾烈な携帯電話商戦が展開されているということだろう。

 街角を曲がると、パソコンで手作りと思われる「韓粧秀 韓国化粧品服装店」のビラを貰った。「尊敬する多数の消費者・美を愛する女性の皆様、ごきげんよう」で書き出されたビラには、「私はソウル留学という好条件を背景に、黒河で正真正銘の韓国最新流ブランドの化粧品・ファッションを提供させて戴いております。皆様には韓国の美女と同じように韓国発の最新流行のファッションをご満足戴けるに違いありません。①ニセモノや紛い物だった場合。②韓国以外の品物だった場合。③お客様に損害を与えた場合。④お客様を騙した場合――以上の際には、購入価格の10倍を弁償させて戴きます」と。ということは、この街でも、それだけニセモノが横行しているということだ。このビラもまたニセでは・・・。

 やはり国境の街にも、消費文化の荒波は確実に押し寄せていた。《待続》