【知道中国 390回】 一〇・五・仲四
――思わず口ずさむ・・・「今日も暮れ行く異国の丘に・・・」
愛国主義教育基地探訪(4-03)
『黒河市人民政府公報 2010 第1期(総第12期)』には黒河市の党書記と市長、つまり市政におけるツー・トップの活動を華々しく紹介する数枚の写真が収められているのだが、市の人民代表大会や政治協商会議の代表と歓談している1枚が不可思議な雰囲気を醸しだす。2人の後ろに、なんとツイン・ベットが写っているのだ。
常識的に考えれば、この種の歓談は2人の執務室、議会、あるいはホテルの会議室など“公的な場”で行われるべきものだろう。にもかかわらずツイン・ベッド、である。はたして、この写真をどう解読すべきか。(1)2人のどちらかの執務室には休憩用に置いてある⇒休憩用としてもツインは如何にも不自然に過ぎる。(2)どこかホテルの1室を利用して歓談した⇒ホテルの会議室を利用すればいいこと――色々と頭を捻ってみたが、“合理的解釈”が浮かんでこない。まさか自宅の寝室での写真ではないだろうに。
いずれにせよ、黒河市に関する生殺与奪の権を握っている2人がベッドを背に多くの市政幹部と談笑する姿は異常としかいいようはない。加えて、そんな写真を市の公式文書に自慢げに、また麗々しく掲載する神経が全く判らない。こういったセンスの有無こそが、彼我を隔てる“決定的な違い”だと強く思う。それにしても、である。ありえない光景と形容する以外、表現のしようがない。
空港ターミナルから出て迎えの車へ。駐車場の周囲には銀行、保険、携帯電話に加え「中俄風情 火山奇観・・・黒河旅游」との文字の下に火山をバックに半裸の艶めかしいロシア人女性が描かれた黒河観光を呼びかける巨大な看板が見られた。そうか、ここには火山があり、中俄(中国とロシア)の風情も楽しめるんだ。さて、「風情」にはとびっきり美形のロシア女性も含まれているのか・・・なあ。
空港を離れ、車は森林の中を走る。「百年大計 防火第一」「与時倶進興林業 依法治林抓防火」「十年成木 百年成林 一場大火化為烏有」「上山帯火如戴鐐 毀林毀草要坐牢 森林火災重防範 厳控火源是関鍵」と、林業振興と防火を呼びかける森林防火指揮部の看板が目に入る。やはり数年前に発生した森林大火は黒龍江省全体に相当な打撃を与えただけでなく、今なお大火の危険は去っていない。いや日常化しているということだろう。
車は粗末な放送施設へ。黒龍江省801放送局である。最初に出迎えてくれたのが「黒河抗日戦争曁日軍侵華要塞遺址展」なる看板だった。さて、黒河で抗日戦争なるものがあったのだろうかと首を傾げつつ車を降り、看板に近づく。「展」というからには何か展示物でもあるのかと思いきや、じつは看板だけ。完全にカンバン倒れ。拍子抜けもいいところ。
放送局の裏に広がる林の中の小道を数分進み、氷の張る崩れかけた階段を降りる。コンクリートで固められた地下施設で、高さ2m、幅3mほど。奥行きは一方が6m、もう一方が10数mほどのL字型だ。旧135混成旅団の防衛陣地の一部とのことだが、敗戦直前、黒龍江を越えてソ連軍が攻撃を仕掛けてきた時、兵士たちは、どのような思いを抱きながら、敵を見据えていたのか。この地に踏み留まりはしが、本隊は遥か後方に去り援軍は望むべくなし。いや敗北必至。撤退するには、時既に遅し。さぞや辛い思いだったに違いない。何人の兵士が身柄を拘束され、ここからシベリヤへ送り込まれたことだろうか。 《QED》