【知道中国 381回】                      一〇・四・念

――その昔、中ソ論争という奇妙な闘いがありました
『反法西斯戦争的歴史経験』(人民日報編輯部 人民出版社1965年)



 「偉大なる反ファシスト戦争に勝利して20年が過ぎた」の一句で書き出されたこの本は、中ソ論争が激しく展開されていた時期に出版されている。文化大革命勃発の1年前のことだ。

 「社会主義国家ソ連を主力軍とする全世界の反ファシスト勢力」が展開した「史上空前規模の正義の戦争」によってファシスト(法西斯)国家のドイツ、イタリア、日本が敗れ去った要因を歴史の教訓として学ぼうというのだが、本書の狙いは「ソ連人民とソ連軍隊と密接不可分にあった指導を進めたスターリン」を否定する当時のソ連共産党中央を激しく論難し、中国共産党こそが世界の社会主義革命の総本山であることを力説する点にこそあった。

 本書は「反ファシスト戦争の歴史が明らかにしている点」として次の4点を力説する。

 第1は、社会主義制度は過酷な経験によって鍛えられ強大な生命力を持つに至ったものであり、プロレタリア専制国家は絶対不敗である。

 第2は、帝国主義こそが現代の戦争の根源であり、帝国主義が本来的に持つ侵略性は永遠に変わることはない。だから世界の平和を維持するためには帝国主義との鋭く過酷な闘争を繰り広げなければならない。

 第3は、人民戦争は必ずや最終的勝利を勝ち取ることができるし、帝国主義勢力を完全に打ち破ることは可能だ。帝国主義は表面的には強大に見えるが、実際は弱々しい張子の虎にすぎない。原子爆弾もまた張子の虎であり、戦争を勝利に導く最終要素は兵器ではない。一にも二にも人であり、人以外の何ものでもない。

 第4は、帝国主義侵略勢力を打ち破るためには、世界各国の人民革命勢力の一致団結こそが最大の拠り所だ。敵に打ち勝つすべての力を結集し、広範な国際的統一戦線を組織し、力を集中して世界の人民にとって最も主要な最大の難敵に立ち向かうべきだ。

 以上の観点からソ連指導部、つまり当時の中国共産党の用語法によるところの「フルシチョフとその後継者」に対し、激しく詰問し反論する。

 「我われは問いたい。あなた方が立ち向かおうとしている敵は、最終的には米帝国主義なのか。はたまた全世界の革命的人民なのか。あなた方が採ろうとしている共同行動とは、米帝国主義との闘いなのか。それとも米帝国主義への投降なのか。あなた方が希求する団結とは、マルクス・レーニン主義を基礎としたものなのか。それともフルシチョフ修正主義に基づいたものなのか」

 「第一次大戦後に人口2億人のソ連が生まれ、第二次大戦後には人口9億の社会主義陣営が生まれた。帝国主義者が第三次世界大戦を目論んでいるなら、その結果として限りない人々が社会主義陣営に転ずると断定しておこう。帝国主義に残された地盤はいよいよ少なくなり、あるいは帝国主義制度そのものが崩壊することだってありうる」と「毛沢東同志による予てからの指摘」を金科玉条として掲げた後、「全世界人民の正義の事業は必ずや勝利し、帝国主義は必ずや敗れ去る! マルクス・レーニン主義は必ずや勝利し、修正主義は必ずや敗れ去る!」との当時の“常套句“で、この本を締める。

 本書は社会主義と世界革命をめぐる神学論争、いや荒唐無稽な大人の童話でした。  《QED》