【知道中国 372回】 一〇・四・初一
――さあ皆さん、声高らかにパーッと唱いましょう
『戦地新歌』(国務院文化組革命歌曲徴集小組編 人民文学出版社1972年)
1942年の延安で毛沢東が「文芸は労働者・農民・兵士に奉仕するものであり、飽くまでも政治・革命のためのものである」と語った「文芸講話」が、その後の共産党の文芸・文化政策を決定的に左右したわけだが、この歌集は「文芸講話」発表30周年を記念して国務院、つまり内閣が編集したもの。
「前言」に拠れば「毛主席の政治基準が第一で、芸術的基準は第二」「革命という政治の内容を可能な限り芸術として完全に整った形に昇華させる」という主張を編集方針とし、共産党、毛沢東、社会主義の祖国を仰ぎ、労働者・農民・兵士の社会主義革命と国家建設闘争における生活を反映させ、青少年が輝かしい毛沢東思想の下で健やかに成長する姿を讃え、中国人民と各国人民の革命的友誼と戦闘的団結を賛美する内容の歌を集めたそうだ。
この歌集には、「東の空が真っ赤に耀き、太陽が昇る。中国に毛沢東が現れた」で歌いだされる「東方紅」からはじまって、「東風吹いて戦鼓轟き・・・アメリカ帝国主義は必ず滅ぶ」と唱う「全世界の人民は必ず勝利する」まで100曲を超える勇壮な歌が収まっている。全部を紹介したいところだが、適当に見繕って面白そうな歌を訳してみたい。
先ず「工農革命歌」だが、「怒れ、進め、撃て! 我ら革命的労働者! 怒れ、討て、破れ! 我ら革命的農民! 手に手を繋ぎ勇躍前へ、肩を組んで闘争だ。地主・買弁搾取して、我らは貧苦のどん底だ。帝国主義の侵略で、民族災難増すばかり・・・党は革命の先鋒で、我らを武装闘争に導き政権を奪取した。反動派を打倒せよ、害虫ヤローを消滅だ。我らは創る新世界、我らは革命的労働者、我らは革命的農民だ。怒れ、進め、撃て!」
次は「万歳、偉大な中国共産党」。「偉大な中国共産党、偉大な領袖・毛主席が育てた党、プロレタリア先進分子が組織し、我らを導く核心の力。偉大な革命の征途における荒波を乗り切り、毛主席の革命路線は革命の航路を導く。万歳、万歳! 偉大なる毛主席、万歳、万歳! 毛主席。偉大で光栄で正しい中国共産党。中国共産党」
「偉大・光栄・正確な中国共産党を唱おう」は「億万の人民は熱烈に歓呼し大声上げて唱います。毛主席が自ら育てた中国共産党を讃えます。半世紀の絶え間なく続く闘争で、荒波、大風なんのその、党は逞しく成長す。偉大な党、光栄ある党、正しい党、あなたは我らの事業を導く核心的力。偉大な導師、敬愛すべき領袖・毛主席、あなた様は革命的人民の心のなかの赤い太陽、真っ赤な太陽だ」
些か辟易としてきたが、もう少し続けよう。「偉大な社会主義の祖国は前進する」では、「東の風が巻き起こり、紅旗ははためき翻る。五洲四海(せかい)に戦歌は湧き上がり、我らが偉大な祖国は社会主義の大道を雄々しく前進する」
「背中に真っ赤な医療箱、深山幽谷分け入って、我らは革命医療隊。真っ赤な心は党のため、毛主席の温情を貧農下層中農に。党の恩愛全国に」は「医療隊の歌」
「山と水とが連なれば、何処でも開く友誼の花。人民共に手を携えて唱うは反帝戦闘歌」は「中国・ラオス人民友誼の歌」
いくら唱っても際限なくウソ臭い。徹頭徹尾・無味乾燥。終始一貫・滑稽千万。いったい将軍サマ治下の北と、どこが、どう違うのか。どだい、五十歩百歩ではなかろうか。 《QED》