【知道中国 365回】                十・三・仲六

――逆さに読めば・・・面白いことこのうえなし
『現代中国事典』(安藤彦太郎編 講談社現代新書 昭和47年)



 この本の表紙には「毛沢東思想と文化大革命、さらには法体系、国家と行政のしくみから人民公社・市民生活の実際まで、現代中国の息吹をつたえる重要事項二八一をえらび・・・的確簡明な解説をほどこした。

 ・・・理想社会実現をめざす七億人民の営為を、いきいきとつたえる画期的な『読む辞典』である」とのアピール。裏表紙には「日中友好の盛り上がりは驚くほどですが・・・相手の中国をよく知る必要をますます痛感します。よく知ることこそ友好を深め、国交を正しく築いてゆくもとです」と、北京から13年ぶりに帰国した西園寺公一の「『現代中国事典』に寄せて」が記されている。かてて加えて、この事典が出版された昭和47年は西暦1972年で文革渦中というだけでなく、編集委員は安藤彦太郎(代表)、斎藤秋男、菅沼正久、高市恵之助、野村浩一、波多野宏一という顔ぶれ。

 ここまでくれば、この事典が「現代中国」のなにを吹聴し、日本人にどのような教訓を垂れようとしていたかは、大方の想像はできる。やはり彼らが最終的に求めていたものは毛沢東思想の日本での普及、いや大胆不敵・荒唐無稽にも毛沢東思想による日本革命・・・?

 ところで、この事典出版に至る動きを追ってみると、この年9月29日に北京の人民大会堂で田中・周両国首相が共同声明に調印したことで国交が結ばれ、1日置いた10月1日、折しも国慶節を祝うその日に、この辞典の「まえがき」が書き上げられ、2ヶ月ほどが過ぎた11月28日には出版されている。なんとも手回しの良いこと。それだけでも驚きだ。

 この事典の執筆者総勢74人は当時の日本を代表するマオイストといっていいだろう。
はたして彼らは金銭万能の現在の中国を、どのように見ているのか。いまこそ「現代中国の息吹をつたえ」るべく「的確簡明な解説をほどこし」た『改訂新版・現代中国事典』を書いてもらいたいものだ。それというのも、今日ほどに「相手の中国をよく知る必要をますます痛感」する時代はないから、である。

 そこで、この事典の執筆者の方々には申し訳ないが、勝手ながら改訂版のサンプルを。

 たとえば解説の最後が「旧社会を生き抜いて社会主義への道を歩む文芸家・学者のなかで、岐路に立った局面選択に的確な判断を下してきた能力のゆえに、また日中関係史のひとつの側面を身をもって代表するゆえに、中国革命・半世紀を人格的に象徴する大知識人といえよう」で結ばれた「郭沫若」の項目だが、次のように改訂してみてはどうだろう。

 【旧社会を無責任に生き抜いて社会主義への道に心地よい居場所をみつけた文芸家・学者のなかで、岐路に立った局面選択に身勝手・無責任・ノー天気な判断を下してきた能力ゆえに、また日中関係史のウソ臭い側面を身をもって代表するゆえに、中国革命・半世紀を無反省で自己中心的に象徴する大いに虚飾気味の知識人といえよう】
 「最大の特徴は、軍隊内における政治上の民主主義、軍事上の民主主義、経済上の民主主義があげられ、これが解放軍を『不敗の軍隊』にしているとされている」の「人民解放軍」の項目は、【最大の特徴は、軍隊内における政治上の権力主義、軍事上の冒険・拡長主義、経済上のカネ儲け至上主義があげられ、これが解放軍を『腐敗の軍隊』にしているとされている】と改められるのだ。

 このように、密かに自己流改訂作業を進めてみるのも面白い・・・デスよ。  《QED》