【知道中国 362回】                      十・三・初九

――野糞を拾って革命を貫徹せよ・・・ってか
『永做一朶向陽花 中小学学生作文選(一)』(人民教育出版社新華書店 1975年)



 この書名こそが、この本の全てをなによりも雄弁に物語っているだろう。

 毛沢東を指す「向陽花(ひまわり)」の「一朶」に、つまり“毛沢東のよい子”になりたい、いやなるんだという決意を披瀝した小・中学生の優秀作品(詩・作文)を集めたのが、この本だ。

 「(一)」とあるからには、続編があったのだろうか。この本の奥付けに「1975年11月第1版印刷 1976年3月第一次印刷」と記されているところから判断すると、出版されたのは76年3月以降とも考えられる。半年後の76年9月には毛沢東が死亡し、10月には四人組が逮捕されているから、超過激な内容からして、あるいは『永做一朶向陽花 中小学学生作文選(一)』の続編は出版されることなく終わったとも考えられる。

 目次に沿ってみると、「紅小兵の心は永遠に党に向いています」(10編)、「基本路線を心に刻もう」(13編)、「《五・七指示》は光芒を放つ」(11編)、「英雄に学び、行動を見る」(17編)、「昔に勝る故郷を喜び見る」(9編)、「全世界人民は固く結ばれる」(2編)となっている。ここでいう《五・七指示》とは、毛沢東が「社会差別を廃し自力更生を柱とする共同体を目指す」との最高指示を下した1966年5月7日に因んで呼ばれ、文化大革命が掲げた理想社会を説いたものとして学習運動が全国規模で展開された。

 各章の表題だけでも、この本が訴えようとしている内容がある程度は想像できるが、なにか面白そうな作品を、1つ2つ見ておきたいものだ。

 先ず面白そうなのが四川省の小学校4年生が書いた「野糞を拾う」という詩だが、「細い青竹しなやかで、おじさんは糞を集める籠を編む。/野糞を拾って支援すりゃ、米も木綿も豊作だ。/籠を背中にゆっくりと、歩けば籠は野糞の山だ。/どちらに担いで行きますか、はいはい生産隊の向陽溝ですね」。どうやら子供たちは犬や猫などのペットから牛や馬の家畜に至るまで、道端に転がっている排泄物を拾って肥料として供出したようだ。ところで野糞には人サマのものも含まれていたのか。当時の回想録を読むと、大量の人糞を流し込んだ水溜りに入り、十分に撹拌して肥料にしたなどといったシーンに出くわすことがあるが、おそらく野糞には人糞も含まれていたんだろう。革命に糞闘せよ、デアル。

 黄色の話の後に赤い話を。江蘇省の小学校5年生の「アフリカに行くおばさんを送る」を見ると、「おばさんは医者で。人民医院で働いています。第三世界の人民革命を支援するために選ばれて、アフリカに派遣されることになりました。駅でおばさんを送ってから、こんな詩を詠みました」と断った後に、「紅旗は翩翻と翻り、汽笛が大きく響きます。アフリカに行くおばさんを、私は駅で送ります。/三万キロは遙かに遠く、おばさんの手を握ります。/医療隊に加わって、あまたの病気と闘いだ。/『べチューンを記念する』を送ります、国際主義を貫いて。/世界中の人民が堅く手と手を結びあい、紅旗が高く翻えりゃ、敵は恐れ慄くぞ。/大きくなったらおばさんに、学んで地球を真っ赤に染めあげよう」

 おばさんが「国際主義を貫いて」「第三世界の人民革命を支援するために」向かってから30数年が過ぎた現在、中国人のアフリカ行きの目的はゼニ儲けとエネルギー資源漁りとなった。ところで、あの子たちは、今どんな暮らし向きだろう。まさか相変わらず野糞を拾い歩き、「地球を真っ赤に染めあげよう」などと息巻いてはいないでしょう・・・ネ。  《QED》