【知道中国 339回】                  十・一・仲九

――だったら、改革・開放政策に踏み切る必要はなかっただろう
『我們正在前進 我国社会主義建設的光輝成就』人民出版社1972年)



 表紙を開いて先ず読まされるのが、『毛主席語録』から引かれた「全ての幹部と全人民は、我国が社会主義の大国でありながら同時に経済的には遅れた貧乏な国であることに、常に思いを致さなければならない。これこそ極めて大きな矛盾である。我国を富強にしようとするなら、節約を励行し浪費に反対するという勤倹建国の方針を推し進める方針を含む奮闘の数十年の時間を必要とする」「中国人民には志気があり、能力があり、遠くない将来に必ずや世界の先進水準に追いつき、追い越すだろう」である。

 巻頭に置かれた論文では、①我が国の農業が提供する食糧と他の農産物は人民生活と工業発展にとっての需要を初歩的に満足させた。②我が国の工業は独立・完備した工業体系の建設に向かって大きな一歩を進めた。③交通・運輸システムは日に日に発展している。④科学技術事業は急速度で発展し、工業と農業の増産を推し進めている。⑤市場は繁栄し、物価は安定し、人民生活は日々に改善されている――と、“ばら色”の総括が展開される。

 なぜ、こんなにも“輝かしい成果”がもたらされたのか。もちろん、毛主席の“有り難い領導”の賜物。そこで巻頭論文の末尾は、「我われは党の一元的指導の下、思想と政治路線における両面の教育を引き続いて深化させ、真剣にマルクス・レーニンの著作を読み、毛主席の著作を学習し、さらに一歩進めて修正主義を批判し作風を整え、劉少奇一派のペテン師が推し進める修正主義路線を徹底的に批判し、毛主席の革命路線が持つ自覚性を高め、謙虚で慎み深く、驕らず焦らず、我が国をさらに豊かで繁栄した社会主義国家に高め、世界各国人民の革命闘争に対しよりよい支援を進めるために奮闘しよう」。この種の“革命的満漢全席“のようなアジテーションが、この本にはテンコ盛り・・・だからウンザリ。

 次いで農業、鉄鋼業、鉱業業、石油工業、機械生産、軽工業、交通、水利発電、科学技術、社会主義市場、金融財政など「毛主席の革命路線の指導下における社会主義建設の輝かしき成果」が紹介されている。文革路線讃美の檄文が途切れることなく続く。ウンザリ。

 たとえば石油工業。「解放前、全国の天然原油の生産量はわずかに数万トン」。原因は全て「帝国主義と国民党反動派」の破壊による。「だから、旧中国は一貫して帝国主義による売り手市場ともいえる『洋油市場』だった」。つまり帝国主義石油メジャーの支配下に置かれていたということだ。だが、「現在では情況は大いに違う。
すでに我が国は石油探査、油田開発から科学的研究、設計施工を含む比較的完備され、一貫する石油工業を完成させた。我われの油田と原油精製工場は祖国の各地に配備され、次から次へと石油工業基地が建設されている」。その結果、1969年の原油産出量は文革開始前(55年)に較べ88%増。70年は69年の49.5%増。71年は70年の28.6%増。かくして自力更生路線を歩む中国は、帝国主義諸国が喚き散らしてきた「中国には石油はない」というタメにする謬論を打ち破り、事実によって「祖国の社会主義建設のために、より大きな貢献をなす」こととなった。

 この本は農業から金融財政まで全経済部門における「我国社会主義建設的光輝成(我が国社会主義建設の輝かしい成果)」を誇るが、実態は毛沢東=文革路線の粉飾決算報告でしかない。それにしても「中国人民には志気があり、能力があり、遠くない将来に必ずや世界の先進水準に追いつき、追い越すだろう」との超大風呂敷は、永久不滅のようだ。  《QED》