【知道中国 310回】 〇九・十一・念四
――ちょっと露骨過ぎませんかネエ・・・
11月19日、タイのウィーラチャイ(李天文)首相府大臣は中国南部の南にミャンマー、ヴェトナム、ラオス、カンボジア、タイ、マレーシア、シンガポールの国々が描かれた地図を前に、タイを軸にした国内外鉄道路線延伸と新設に関するアピシット(袁順利)政権の方針につき熱弁をふるった。
同大臣はアピシット政権は国際鉄道3路線、国内中高速鉄道4路線を計画中とするが、注目は国際路線だ。1本目は雲南省の省都・昆明を基点に河口、ハノイ、ホーチミン、プノンペン、バンコクを経由してシンガポールに繋がる「南南経済ルート」。
同ルートは大部分に既存路線が走っており、タイ国内の4.5キロ新設で昆明からシンガポールまでの全線が結ばれる。建設費用は格安で費用対効果は抜群。中タイ両政府は極めて前向きだという。
2本目が、ヴェトナムとラオス国内を通過し広西チュワン自治区の平祥と東北タイのナコンパノムとを結ぶ「東西経済ルート」。この場合、タイ国内に限れば建設距離は318キロで総工費は289億バーツ(1バーツは邦貨で3円前後)を予定。ラオス国内は手付かずというマイナス要素があるが、ナコンパノムの南東250キロほどにはヴェトナム中部港湾都市で知られるダナンがある。そこでナコンパノムとダナンとを結べば、東北タイのみならずインドシナ内陸部から日米やオーストラシアなど太平洋周辺諸国へのアクセスが容易となると同時に、タイ東北部の辺境の街であるナコンパノムはこの地域の物流のハブとして重要な役割を担うこととなり、一躍してインドシナの戦略的要衝に変貌するはずだ。
3本目がタイ北部のチェンライと昆明とを結ぶ北部ルートで、タイ国内の建設区間は246キロ。目下の試算では総工費364億バーツという。
かくして同大臣は、①費用対効果などを勘案のうえアピシット政権としては南南経済ルート完成を最優先させる方針だ。②タイ国内の鉄道新設をふくめ中国側はタイへの投資に極めて意欲的である。③直近の温家宝首相ほか中国側政府高官との面談時、中国側はタイとの合作に強い意欲を示した――と語り、「近々に訪中するので、話を詰めたい」と。
アピシット政権で外相を差し置いて対中関係の窓口役を任じている彼が、タイ華人企業家の華麗なる閨閥に繋がっていることは既に指摘したところ。概略を示せば、父親は対中投資にかかわる華人企業家のゴッド・ファーザーの立場にあり、超優良銀行が中軸の巨大財閥のラムサム(伍)一族や一貫して対中投資のリード役であるタイ最大の多国籍企業集団を経営するチョウラワノン(謝)一族と極めて近い縁戚関係にある。
以上をタイ側の“内情“とするなら、中国の南の辺境と大陸部東南アジアとを結ぶ国際鉄道建設にかかわる計画を中国側からいうなら、やはり80年代末に李鵬首相(当時)はじめ北京の最高首脳陣が掲げた「(雲南省を中心として)西南各省区は連合し改革を加速し解放を拡大し東南アジアに向かえ」との政策に行き着くことになる。
ここでウィーラチャイ大臣が掲げた地図を見直せば、各国のド真ん中にタイが位置している事が判ろう。中国は、地域の中心であるタイをテコに東南アジア進出を狙う。
“熱帯への南下”は漢族にとっての歴史的帰結。タイは中国の力を利用して、この地域の中心国を目指す。
国策に加え自らが連なるファミリーの“私益”を・・・様々な思惑が渦巻きながら、北京の東南アジア進出は着々と進む。「東アジア共同体」の掛け声は空しい限り。 《QED》