――番外:『亞洲週刊』の伝える日本(6)――
『亞洲週刊』(2025/9/15-9/21=第37期39巻)は「石破茂被逼宮下台留破局 五大狠角色競逐首相」の見出しで、自民党総裁選の背後に浮かぶ現在の日本の問題点を指摘する。
――9月7日は日曜日だったが、石破首相は異例な形で記者会見を開き、「日米関税交渉が一段落した現在を辞任の時期と捉え、後任に道を譲る決意をした」と、自民党総裁を辞することを表明した。それは首相の座を明け渡すことでもある。
自民党内では7月の参院選敗北を機に一層の高まりを見せるようになった「逼宮(石破おろし)」に抗しきれず、石破は就任1年足らずで辞任の止むなきに到ったわけだが、その背景に次の三点を挙げることができる。
1:党内非主流派に属す石破は主要派閥からの支持が得られず、独自の政策を進めるには限界があった。
2:政策遂行に当たって国民民主党などの野党に一定の方針を示すことができず、また調整力を欠いたため、野党の信頼を繋ぎ止められなかった。
3:首脳会談の際に名前すら忘れられるほどに、トランプ米大統領の信任が得られなかった。その姿は同大統領との間で絶大な信頼関係を結んだ安倍元首相とは大違いである。
以上から石破独自の政策を打ち出すことができず、これといった実績を挙げられなかったばかりか、政治を進める上で困難が重なるばかり。かくて昨秋の衆院選、今夏の参院選で自民党は惨敗を喫したことで、必然的に党内に責任論が起こる。一連の反石破の動きに配慮せず抗ったゆえ、党内に総裁選前倒しの声が沸き起こり、ついに辞任へとつながった。
立候補が予定されているのは高市早苗、小泉進次郎、林芳正、小林鷹之、茂木敏充の「五大狠角色(5大豪腕政治家)」。9月8日には国会内で、幹事長を経験した茂木が逸早く立候補を正式に表明している。
総裁選には派閥力学によって左右されてしまう国会議員のみの投票ではなく、全党員投票による新しい形の「全員参与(フルスペック)」方式が採用されることとなった。だから総裁を党員が直接選ぶ「新方式」によって、「自民党を真に換骨奪胎させ、日本に政治改革と社会革新をもたらすことになるだろう」
石破は総裁(=首相)から去るが、次の指導者に次の難題を残すこととなった。
1:インフレが国民生活に与える圧力と国民的不満をどのように解決するのか。
2:経済成長と財政再建のバランスを採りながら、急速なインフレがもたらすマイナスをどのように解決するのか。
3:急激に進む少子高齢化を前に、どのように外国人材を取り入れて製造業を安定的に発展させ、地方経済に活力を与えるか。
4:トランプ大統領との信頼関係に加え、中日両国間に安定的な関係(「闘而不破」)をどのように築くのか――
そして最後を、「日本社会で新たに広がりつつある『日本第一』『日本優先』の狭隘な民族主義の思潮を的確に捉え、正しく対応し、在日外国人移民問題を前向きに処理できるのか。この点を、日本の次期指導者は試されている」と結んでいる。
はたして5人の候補者が現在の自民党内で「五大狠角色」であるか否かは議論のあるところだろうが、注目したいのは、たとえば高市に反中と悪罵を浴びせ、林を親中と持ち上げるような候補者に対する恣意的評価を避けているうえに、揣摩憶測と好悪の感情に左右されがちな我が国メディアの報道振りとは色合いを異にし、今次総裁選の背景を過不足なく冷静に捉えている点である。それにしても当然といえば当然だが、「狭隘な民族主義」と「在日外国人移民問題」の動向が、やはり大いに気になるのだろう。《QED》