――“もう一つの中国”への旅(旅132)
9)第15回世界華商大会(2023年):華人企業家に一層の中国投資を呼び掛けた習近平政権の動きに呼応するかのように、謝国民は「すでに日本を超えて世界第2の経済実績を築き上げ、14億の人口を擁する中国は日本、韓国、東南アジアを加え巨大なアジア市場を形成し、新しい時代の企業発展のための広大な基盤となっている。中国が進める一帯一路は企業家精神を大いに刺激する」と、一帯一路への強い支持を表明している。
10)第3回世界華僑華人工商大会(2023年):開会の基調講演の場に立った中央政治局委員兼中央統戦部部長の石泰峰は参加者に「共に質の高い一帯一路の建設を」と語り掛けた。謝国民はタイの有力華人企業家を引き連れて参加。そこには、バンコク銀行を率いる同行董事長の陳智深(チョッチュー・ソポンパニット)も加わっていた。バンコク銀行による一帯一路への傾斜のシグナルに違いない。
――このようにザッと振り返っただけでも、「風険投資(ハイリスク・ハイリターン)」から出発し、北京と確固たる関係を築いた後の謝国民の振る舞いは政商と呼ぶに相応しいものだ。やはり彼の存在感と影響力は、共産党政権(全世界の華僑・華人対策を統括する国務院華僑務弁公室)との結びつきと切り離すわけにはいかないだろう。
ところが、さすがに謝国民である。これで終わるワケがなかった。
2024年6月、折からバンコク中心部に位置するシリキット王妃国際会議場で開かれた「THHCCA Soft Power Forum 2024」(6月28日~30日)に現われた謝国民は、85歳(1939年~)の高齢ながら「タイにとっての好機と食品の安全」と題する講演を行ない、「タイの新たな商機はドリアンにあり」と、力説したのである。いったい「果物の王様」と呼ばれ、独特な香りを強烈に放つドリアンの、いったいどこに商機を見出そうとするのか。その発想に強く興味を持たざるをえない。
謝国民は概略、次のように語っていた。
「新型コロナ危機収束後のタイには多くの商機が転がっている。セーター現政権は経済繁栄に政策資源を振り向け、国民の豊かで健やかな日々を目指す。これらの客観状況から考えるなら、農業が経済の基盤であるタイだからこそ、そこに商機が求められる。
なによりも狙い目は薬の効能を秘めた野菜や果物だ。それというのも現代は健康志向が強いゆえに、健康に合致した野菜や果物が地球規模で強く求められているからである。
タイでも事情は同じであり、野菜や果物への需要は年々高まりをみせる。国民の多くは食品を薬と認めるようになった。
タイは薬の役割を果たす多種類の食物資源を産し、生産量は多く、品質は優良だ。なにより世界的に安全性が高く無農薬な農産品の需要は高まっている。ここが狙い目である。
肉に代わりうる豊富なタンパク質を持つからこそ、生産に関わる科学的処理に投入する資本を考慮したとしても、現時点でビジネスとして高い将来性を見込めるのは豆類だろう。
豆類に加えタイの主要農産品としてドリアンを強く推したい。それというのも以下の背景が考えられるからだ。
1)市場の潜在力:ドリアンは中国市場で広く好まれているが、14億の人口を抱える巨大市場にしては現時点の消費量は低い。
2)品質の優位性:タイのドリアンは品質に優れ種類も豊富だ。
3)加工の可能性:ドリアンはアイスクリームや各種スイーツなど多品種に加工可能である」
――こう詳しく指摘した上で中国に向けたドリアンの輸出振興策を強く訴える。だが、その前提として良質で大量の水の確保が急務であると強調することも忘れない。《QED》