【知道中国 2881回】                      二五・八・念四

  ――“もう一つの中国”への旅(旅130)

謝国民の変幻自在極まりない動きを、もう少し追っておきたい。

2023年11月8日、じつは謝国民は我が皇居に参内していた。それというのも、明治政府によって1875(明治8)年に制定され、天皇陛下の名の下に国際関係・日本文化促進・福祉向上・環境保全などに顕著な功績を挙げた者に授与される「旭日重光章」を授けられたからである。

謝国民に対する日本政府の動きを、タイ華字メディアはどのように伝えたか。やや長くなるが、彼らの日本観を推測するうえからも参考になると思うので、以下に紹介しておく。

――11月8日、CP(正大)集団上級董事長の謝国民は、2023年の日本の秋期外国人叙勲において、日本政府が外国民間人に与える最高の栄誉「旭日重光章」を授与された。皇居での授与式典で謝国民は徳仁天皇の前に進み出た後、岸田首相から勲章を手渡された。

日本政府は「CP(正大)集団上級董事長として多くの日本企業との合作を進め、日本企業の発展に多大の功績があった。長年に亘って日本とタイの経済連携強化に努めるほか、タイにおける日本食品の販売に寄与すると共に、日本の食文化の海外への紹介と普及に多大の貢献を果たした」と、謝国民を高く評価する。

日本の著名な『日本経済新聞』に拠れば、CP(正大)集団は1973年に新鮮な冷凍食品を日本に向けて初輸出して以降、日本人に安価な鶏肉などのタンパク質食品の提供を続けてきた。

謝国民は今回の叙勲を「この上ない栄誉であり最高の誇りである」と喜ぶ。日本企業との取り引きに、CP(正大)集団は自社の経営理念「三利(国家、民族、企業の利)」を貫いてきた。

日本における最大手の食品輸入商社である伊藤忠と手を携え、中国の中信(CITIC)集団と合作に踏み切ったが、これはタイ、日本、中国で高い影響力を持つ指導的企業による偉大な合作事業であり、アジアのビジネスが潜在的に秘めたポテンシャルを大いに高めると共に、世界の檜舞台で頭角を現したものとして大いに評価されている。

CP(正大)集団にとって、この合作は貿易事業を発展させるだけではなく、タイを含む世界各地への投資を促す効用をもたらしたといえる。

謝国民が成功したタイの企業家であることは日本でも夙に知られており、2013年にNHK・TVのドキュメンタリー番組『成功したアジアの企業家』を手始めに、数々のメディアによって紹介されてきた。

2016年には『日経新聞』の「私の履歴書」にタイ人として初登場し、自らの企業家人生を回想している。(筆者注:謝国民「私の履歴書」は2016年7月1日~31日。全30回)

「私の履歴書」は世界の著名人が自らの人生を回顧した記録でもあり、これまで日本ではソニー、パナソニック、ホンダなど大企業のCEOたちが、外国人ではブッシュ元米大統領、サッチャー元英首相、リー・クワンユー元シンガポール首相などが登場している。

「私の履歴書」によって、日本人は功成り名を遂げた著名人の成功体験からヒントを学び、自らの人生の手本としているのである――

以上がタイの華字メディアによる紹介だが、謝国民と日本、あるいは日系企業との関係を必ずしも正確に伝えているわけでもないだろう。素直に読んでみると、なにやら企業家としての功績の重点が日本との関係に置かれているような印象を与えかねない。

だが謝国民は飽くまでも華人企業家である。彼らに共通する政商的振る舞いが色濃く、それ以上でも以下でもない。だから当然のことだが、その主戦場は日本ではない。中国市場であるはず。であればこそ、注視すべきは共産党政権との関係だろうに。《QED》