――“もう一つの中国”への旅(旅129)
同名誉領事館の主たる任務は、一帯に居住するロシア公民への行政サービスと権利保護とされる。だが、ならば北タイ中心部にはロシア人が少なくないと推測できそうだが、ならばロシアの狙いは当然だが、それ以上に気になるのがCP(正大)集団の目論見である。
タイ北部のチャンマイ、チャンライ、メーホンソンを管轄する名誉領事の謝吉人がCP(正大)集団総帥の謝国民の長男であり、No.1後継者であることは衆目の一致するところ。未来のCP(正大)集団の総帥とはいえ、謝吉人が独断で名誉総領事就任に応じたわけではなく、やはり総帥である父親の指示、あるいは同意があったとしか考えられない。
それから7カ月ほどが過ぎた2022年9月2日、タイの華字紙『中華日報(電子版)』は、「タイ正大、10億ドルでインド・スーパーチェーン麦徳龍(Metro)買収」と報じる。
それに拠れば、①Metroは2003年にインド市場に参入し、全国に31店舗を展開。②CP(正大)集団は、すでにインドで3店舗の蓮花(Tesco Lotus)チェーンを経営。③にもかかわらずCP(正大)集団は、ライバルを3億ドル上回った買収金額を提示し買収に踏み切る――を示し、「今回のMetro買収によって、インドにおける小売り市場で大きな影響力を発揮することになるだろう」と予測していた。
この動きを常識的に捉えるなら、ロシアのウクライナ進攻によって国際社会が不安定化する環境にあっても、新たな商機をインドの小売り市場と定めたということか。それにしても大胆と言えば大胆ではある。だが「危機の機は商機の機」を掲げればこそ、謝国民には謝国民なりの“勝算”があるはずだ。
これまで中国とインドの人口は2027年から2030年の間に逆転すると考えられていた。だが、国際的な予測より早く2023年4月の時点でインドは中国を290万人ほど追い抜いて世界最大の人口大国に躍り出た。このままの勢いで人口増が続くなら、今世紀半ばにはインドは16億6千万人に達する。2020年国連統計に拠れば、インド国民の平均年齢は28.43歳で、若年層が圧倒的多数を占める。
ロシアとはシッカリと友好関係を確保し、その一方で次の標的を「若いインド」に定めた。これが謝国民の狙う商機となるのだろうか。
ここで改めて、2022年12月1日の謝国民の発言を思い起こしておく必要があろうと考え、敢えて再録しておきたい。(第2877回参照)。
「世界は変化している。その変化に伴って我々も変化しなければならない。新しい物事はより速く、より高度に発展する。困難で複雑な事態も簡明化してくる。
貿易の二極化、地政学問題、戦争を背景にした国際社会の現状を考えるに、タイはすべての国や利益をもたらしてくれる外国企業と交流すべきだ。一方の勢力に肩入れするとか、あるいはタイには関わりのない政治問題に手を突っ込むとかいったような権限を、タイは持ち合わせてはいないのだ。
ある国に不満を持つことで他方の国の立場に立ったとしても、経済という視点に重きを置いくとするなら、誰とでも、どんな国とでも交流すべきだ。そうすることで間違いなく利益を導き出すことができる。
依然としてアメリカは世界経済の指導国ではある。最大の市場は中国ではあるが、最も優れた技術と金融を握るのはアメリカであり、そうであればこそアメリカと手を切ることはできない。だから、我々はバランスを保たなければならないのである」《QED》