【知道中国 2876回】                      二五・八・仲四

  ――“もう一つの中国”への旅(旅126)

謝国民に“虚心坦懐”に問い質してみるなら、あるいは日本の不動産を中国資本から守るための相当に効果的な方法を教えてくれるかもしれない。だが、ベラボーに高額な授業料を吹っ掛けられることを予め覚悟しておく必要はあるだろう。冗談抜きにして。

さらに謝国民は続ける。

「世界各国から聞かれるのは、国外で会社を創設するならタイで、との声だ。ならば、なぜタイは法的にも積極的に対応しないのか。海外資本のタイ進出によって、タイ国内で就業機会が生まれ、労働者の収入が増し、経済発展のチャンスとならないだろうか。

このように1人の外国人投資者をタイに招き寄せることは、10人の観光客がやって来るより多くのカネをタイに落とすことになり、タイの経済発展に寄与することになる。だが、彼らが我々の仕事を奪い去ることは不可能だ。それを恐れることはない。すでにタイは高齢化社会に入っている。このままではタイは立ち行かなくなる。ならば、なぜ経済発展に寄与する人材をタイに呼び込もうとしないのか」            

ここで振り返ってみるに、謝国民がCP(正大)集団上級会長の立場に立ってプラユット首相に対し「外国人による土地所有問題に前向きに取り組め」と発言したのが2022年12月1日。ということは、CP(正大)集団とバンコク銀行――タイというより世界的な巨大華人企業を経営する謝(チョウラワノン)一族と陳(ソポンパーニット)一族――を血で結びつける華麗な結婚式(拙稿2862回参照)が行なわれた2022年11月14日から半月ほどが過ぎていたことになる。謝国民の得意絶頂は想像するまでもないだろう。

さらに謝国民の主張に耳を傾けたいが、それというのも、そこから日本の企業家、ひいては日本人とは違った彼らの発想の一端を垣間見ることができる、と考えるからである。

 思うに、ビジネスという営みに対する取り組み方の違いに目配りをすることが、謝国民の華人企業家としての生態を捉えることにつながるばかりか、同時にそれは熱帯に“もう一つの中国”――“熱帯に進軍する中国”であり、同時に“膨張する中国”である――のカラクリを解きほぐす一つのキッカケとなるに違いない。

 

これまでも繰り返して記してきたが、中国を考える場合、日本では日中関係を基軸とする視点から離れることができなかった。あるいは意識するしないにかかわらず、日中関係の推移に固執・拘泥し過ぎたのではないか。

現在のレベルにまで中国が姿を変じ、国際社会における影響力・立ち位置を大きく変貌させてしまった以上、無意識・無批判のままに後生大事に持ち続けてきた日中関係基軸の中国観を一刻も早く清算・脱却し、国際社会なかでの日中関係といった新たな、いわば多次元方程式のなかに日中関係を放り込み、揺れ動く中国を考える道を模索することが急務なのだ。それは同時に、日本国民の前に突きつけられた“どうしようもない停滞”という冷厳な事実をも意味しているわけだが、少なくとも日中二次元方程式の時代は終わったことを冷静に嚙み締めるべき時に立ち至ったこと程度は、やはり自覚すべきだろう。

 

これ以上とやかく言う積もりもないが、中国との関係を政治・経済・歴史・文化など従来からの視点に拠って立つだけではなく、謝国民のような立場の華人企業家の振る舞いも含めて捉え直すべきではないか。それというのも謝国民に象徴される存在が、鄧小平が踏み切った対外開放策――鄧小平から現在の習近平一強政権へと連続する富国強兵路線――に平仄を合わせてきたことは紛れもない事実、と考えるからである。

そこで“もう一つの中国”の根幹を構成する華人企業家と共産党政権とは極めて「親和性」に富んだ関係を維持している。こう、敢えて断言しておきたいところだ。《QED》