【知道中国 2874回】                      二五・八・十

  ――“もう一つの中国”への旅(旅124)

タイを代表する多国籍企業であり、中国全土に展開する最大級の外資であるとはいえ、CP(正大)集団は飽くまでも私企業にすぎない。だが、その私企業が進めるプロジェクトが両国政府の公式文書に書き込まれたわけだから、やはり尋常ではなさそうだ。

改めて共同声明を読んでみると、その骨子は次の2項目に収斂する。

(1)ラオスを加えた3カ国間の連携を強化し、「中老鉄路」とタイ鉄道路線の連携による貿易・投資・物流ネットワークの促進と地域経済のレベルアップ。

(2)中国の粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ経済圏)と長江三角州(長江デルタ)とタイのEEC(東部経済回廊。後出)の連携強化。

どうやら(1)からはタイ内陸部を陸続きのラオスを経て中国南部と、(2)からはタイランド(シャム)湾に面する沿海部経済開発地域と中国南部・中部の両沿海部の経済先進地域とを海で結んで――それぞれ経済的連携強化を目指そうとする方向が見て取れる。

以上の(1)と(2)とを総合して考えるなら、陸続きであれ、海で結ばれる関係であれ、タイが中国との経済関係をより重視している方向を打ち出していることが判る。これを別の視点で捉えるなら、プラユット政権は“熱帯への進軍”を急ぐ習近平政権の路線に沿った形で、タイの国作りを構想している。こう捉えるなら、この共同声明は両国関係のみならず、東南アジア国際社会にとって画期的なものと見なすことができるだろう。

 

ところでこの共同声明を謝国民の立場から読み直すなら、両国の戦略的協力関係の大きな柱のEECが正式に組み込まれたことは、やはり大きな成果と言えるだろう。いや、敢えて“満額回答”と表現できそうだ。

それというのも、これまで謝国民は、EEC開発プロジェクトの重要な柱であるバンコク東郊のスワンプーン、ドーンムアン、ウタパオの3つの国際空港をリンクする高速鉄道プロジェクトを企業家人生の集大成と位置づけてきたからである。つまり、この共同声明は謝国民の華人企業家としての“集大成”に対する、タイと中国の両国政府からする“裏書き”に近い役割を担っていると見なしても強ち的外れでもないだろうからだ。

じつは中国の歴代共産党政権は1989年の天安門事件をキッカケとした西側各国からの経済制裁に対する対抗姿勢を示して以来、雲南省を軸とする中国西南部と東南アジア大陸部との経済的関係強化を求め、その中核事業として昆明とシンガポールとを高速鉄道で結ぶ「泛亜鉄路」構想の実現を目指してきた。

1990年代初期に国政の重要課題として浮上した同構想は、中国政府は昆明発でミャンマー・タイ経由(「泛亜鉄路(西線)」)、ラオス・タイ経由(「泛亜鉄路(中線)」)、ヴェトナム・カンボジア経由(「泛亜鉄路(東線)」)の鉄路をバンコクで結び、マレー半島をクアラルンプール経由で一気に南下させシンガポールに至る「泛亜鉄路」を軸に、メコン川を軸にした水路や陸路を結び、東南アジア大陸部(ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ヴェトナム、マレーシア、シンガポール)をカバーする物流ネットワークの構築を目指す。

ここで目を逸らすわけにいかないのは、内外からの毀誉褒貶がありながらも、たとえば2021年末に完成した「中老鉄路」にみられるように、上記の構想が“遅々とした歩み”ではあるものの、実現に向けて前に進んでいることである。

たまたま目にした昨日(8月9日7:46配信)の時事通信ネット・ニュース(「高速鉄道輸出でしのぎ 新幹線より『中国式』に勢い」)は、「(中老鉄路の)の拠点駅がある雲南省昆明では7月、大勢の中国人に加え、外国人観光客が目立った。ラオスで乗車したという英国人男性は、欧州域内の路線と『乗り心地の遜色ない』と、感想を口にした。ラオスでは鉄道整備を追い風に、一気に中国資本が流入している」と伝えている。《QED》