――番外:『亞洲週刊』の伝える日本(2)――
『亞洲週刊』(2025/8/4-8/10)は、「日本網紅(ネットインフルエンサー)、市会議員当選/切り取り動画で華裔に対する論議を巻き起こす」と「石破おろしを前にして試される危機突破能力」との表題で、日本に関する2本の記事(共に1頁大)を掲載する。
■前者では、迷惑系ユーチューバー「へずまりゅう」こと原田将大を俎上に挙げる。
――奈良公園で鹿と遊ぶ中国人観光客の姿を撮影し、彼らが鹿を虐待しているかのように加工した「切り取り動画」をSNSなどで流し、「中国人観光客や現地在住華裔の“非文明的行為”を喧伝し誹謗中傷」することで「排外風潮」の支持を得てきた。
「人生の失敗者である原田」は7月の奈良市議選に無所属で立候補し、「外国人問題を許さない!」「地域文化を守れ!」「鹿さんと奈良を外国人から守ります!」などを訴え、「恐華感情を煽り」、8千票強の支持を獲得して55人の候補者中第3位で当選を果たした。原田が流した大量の「反華」情報によって、現地在住華裔は「中国人観光客」と誤解され、「右翼暴民」からの嫌がらせを受けている――
かくて『亞洲週刊』(以下、『亞』)は「原田の数々の悪行にもかかわらず、奈良市の有権者が依然として彼を議員と認めることによって、ネットの悪用と反華の政治的悪巧みの顕著な実例が示された」と結論づけた。
これまでネット悪用による原田の数々の犯罪、あるいは犯罪紛いの行為については処分・批判されて当然だが、今回の奈良市議選で示された民意を「反華」であることを理由に否定する権限が『亞』にあるとは思えない。市議会議員としての適不適を決めるのは『亞』ではなく、むしろ今後の彼の議員活動であり奈良市の有権者であるはずだ。
■後者は「石破おろし」に関する政界内外の動きを報じつつ、「石破談話」に言及する。
――自民党惨敗の「根本的原因は伝統的保守政党である自民党の中立化が保守票の大量流失を招いた点にある」と分析。「党内無派閥保守自由派」に属する石破は「自民党内には稀な敗北を恐れない政治家」であり、その「政治的個性からして自分から引責辞任を申し出る可能性は極めて低い。だが石破おろしの勢いに抗し難いことも知っているはず」
周辺事情や与野党情勢から考えて、どうやら9月末の自民党総裁選によって選ばれる新総裁が新首相に就任し、新たな政権を組み立てることになりそうだ――
要するに『亞』は石破の首相辞任を想定し、遅くとも9月末には新政権が誕生すると見ている。だが、ここで等閑視できないのが「石破談話」に関する見解である。以下、その部分を見ておくと、
「今年は日本敗戦80周年に当たる。辞任は避け難い石破は『石破談話』を発出するのか。日本は敗戦したわけであり、終戦ではなかったことを認めるのか。戦後70周年に発出された『安倍談話』を修正するのか――これらに注目すべきだ」とした後、「明らかにいえることは、日本は敗戦に関わる反省と、アジアなどの侵略を受けた隣国に対するお詫びを今後とも行なうべきである。これこそが、石破茂と党内の石破おろし勢力との間の勝敗を左右する最後の王牌(切り札)である」と結論づける。
『亞』は自民党を超えて政界内外の情勢からして石破退陣必至と読んだ上で、首相に留まっている間に「党内無派閥保守自由派」の彼に「石破談話」を出させ、日本の「敗戦」を内外に強く印象づけようとしている。ならば誰が日本を「敗戦」に導いたのか。この点を捉えるなら、『亞』の主張は9月3日に北京で予定されている「中国人民抗日戦争及び世界反ファシズム戦争勝利80周年」に連動していると考えられる。どうやら彼らの発想に従うなら石破の去就は自民党内の権力争いに関わるばかりか、日中関係を再定義し、日本の命運を左右しかねない。このことを、日本人として深く留意しておきたい。《QED》