【知道中国 271回】 〇九・八・念八
―そりゃもう、雄々しくも勇ましい時代でした
『軍事基本知識』(《軍事基本知識》編写組 上海人民出版社 1974年)
この本は林彪が謎の死を遂げた1971年9月から数えて3年後、毛沢東の死の2年前の1974年9月に出版されている。四人組の政治が猖獗を極め、批林批孔運動が盛んに進められていたのが74年前半。後になって、74年後半には毛沢東は四人組の突出を警戒するようになっていたと主張するが、さて。なにはともあれ、「毛沢東思想万歳」の時代だった。
先ず表紙を開け最初に目にするのが、『毛主席語録』から引かれた「思想上・政治上の路線が正確か否かが一切を決定する」「正確な政治的軍事的路線は困難なく自然に深化するのではなく、闘争のなかから生まれ発展する」「戦争における偉大な力の根源は民衆のなかに存在する」「兵民こそが勝利の源だ」など。次いで「毛主席の軍事著作を真剣に学ぼう」と題された「まえがきにかえて」は、「早くも民主革命の時期において、毛主席は全党に向け『軍事問題を心して研究せよ』との号令を下した。批林批孔運動が進められている現在、毛主席の軍事著作を真剣に学び、林彪のブルジョワ階級軍事路線を批判することは軍事問題に対する意義深い研究である。(中略)過去と現在の新旧の経験をよりよく総括し、全党のマルクス主義の理論水準を大いに高めよう」と結ばれる。
さて本論だが、目次に沿ってみておくと、「第一章 隊列」では基本中の基本である気をつけ(正立)と休め(稍息)からはじまり、速歩・駆け足・分列行進の方法、銃の持ち方、各種匍匐や隊列の組み方について述べられている。以下、「第二章 各種武器の基本知識」「第三章 基本技術」「第四章 班以下の単位による戦術基本知識」「第五章 行軍、宿営、偵察、警戒、通信」「第六章 航空機、空挺部隊、戦車への攻撃」と続き、「第七章 原爆、化学、細菌兵器に対する防護方法」と続いている。豊富なイラストを交え、勘所を押さえた簡明な解説がなされているだけに、これ一冊で軍事オタクになれること請け合いだ。
「むすび」で本書は、「偉大なる革命の指導者であるレーニンは帝国主義とは侵略であり戦争であると、かつて、しばしば指摘している。現在、帝国主義と社会帝国主義こそが戦争の根源である。偉大なる領袖の毛主席は1970年5月20日の声明で、『新しい世界大戦の危険は依然として存在している。各国人民は備えなければならない。だが、現下の世界の主要な傾向は革命である』と指摘している。侵略戦争を撥ね退ける準備をしっかりするために、我われは毛主席の教えを拳々服膺し、高度の警戒を怠ることなく、軍事の学習に努めなければならない。帝国主義、社会帝国主義が大胆にも我が国に向かって侵略戦争を仕掛けてきたら、敢えて彼らを、断固として、徹底的に、きれいさっぱりと跡形なく、全面的に殲滅する」と、勇ましくも堅い決意を披瀝する。
2009年7月27日、ワシントンで開かれた米中戦略・経済会議開会式に出席したオバマ大統領は、21世紀の世界を作るのは米中両国だ。両国関係はアメリカにとって最も重要な2国間関係だと、最大級のゴマスリをみせた。毛沢東時代の北京にとって不倶戴天の敵であったのはずの帝国主義・アメリカは金融不況で四苦八苦。唯一の超大国と自他共に許していた居丈高な態度を引っ込める。一方の中国側は、はたして宿敵を金融戦争で「断固として、徹底的に、きれいさっぱりと跡形なく、全面的に殲滅」しようと狙っているのか。
出版から35年余。本書を手に、アノ時代から、いまを考えると・・・興味津々。 《QED》