【知道中国 2758回】                      二四・十・念一

  ――“もう一つの中国”への旅(旅10)

このルートが、中国が狙う東南アジア大陸部における一帯一路のうちの高速鉄道ネットワーク(中国は「泛亜鉄路」と呼ぶ)の東線の一部を構成することが想定されている。さらにプノンペンまでの路線を東に延伸すればヴェトナム南部のホーチミンに結ばれ、さらにヴェトナムを北上してハノイへ。継いでホン(紅)河に沿って遡上すれば昆明に到る。

ここで時計の針を19世紀末から20世紀初に巻き戻してみると、インドシナの殖民地化(仏領インドシナ)に成功したフランスは、ハノイから昆明まで鉄道路線を建設し、東南方から清国侵攻を図った。同時期、イギリスは殖民地ビルマを拠点に西南方から清国攻略を目指した。

いわば習近平が強引に推し進める大陸部東南アジアでの一帯一路は、かつて英仏列強が進んだ北上路線を逆方向にして熱帯に向かって南下している、とも考えられよう。これを歴史の“逆襲”というのではないか。やはり歴史は未来を語たってくれる。

閑話休題。

昆明=ハノイ=ホーチミン=プノンペン=バンコクを「泛亜鉄路・東線」、昆明=ヴィエンチャン=ノンカイ=コーラート=バンコクを「泛亜鉄路・中線」、昆明=マンダレー=ヤンゴン=バンコクを「泛亜鉄路・西線」と、中国側は呼ぶ。中線のうち昆明=ヴィエンチャン間は2021年末に運行を開始し(「中老鉄路」)、タイ線区(「中泰鉄路」)のうちのコーラート=バンコクの工事は“遅々としながら”も進んでいる。ミャンマー国内の混乱状況からして、西線に関しては構想段階で止まったまま。

ところで今夏、ヴェトナム戦争とカンボジア内戦をめぐって“因縁浅からぬ関係”にある3国――ヴェトナム、カンボジア、中国――の間で新しい動きがみられた。

先ずは7月16日、ヴェトナム訪問中の金立群AIIB(アジア・インフラ投資銀行)総裁に対し、ヴェトナムのファム・ミン・チン首相が50億ドル(南北高速鉄道建設と同路線の中国国内路線との接続や他のインフラ建設用)の資金援助を要請し、これに対し金AIIB総裁は強い賛意を示したと報じられた

8月4日になると、カンボジアで首都プノンペンとタイランド湾を結ぶ全長180キロの「フナン・テチョ運河」の建設が始まった。総工費は17億ドルで2028年の完成を目指す。長期独裁体制(第二首相:1993~98年/首相:1998~2023年)を布いてきたフン・センに代って政権に就いた長男のフン・マネット首相は同運河起工式典の席上、「この運河は将来的にカンボジアの国家的威望を高め、完全な領土を約束し、国家の発展を来す。運河完成には、あらゆる犠牲を惜しまない」と獅子吼した。

目下のところ、カンボジアの輸出品の3分の1は9号公路からホーチミン港経由で海外に運ばれている。だが同運河が完成すれば、カンボジアはヴェトナムを介さずとも海外との輸出入が可能となる。これはヴェトナムに対するクメールの積年の恨みの一部でも晴らすだろう。ポル・ポトが熱く求めたクメール民族主義からすれば、バンザイ!となろうか。

8月14日には、ヴェトナム共産党書記長就任(8月3日)直後のトー・ラムが訪中し、両国首脳会談が行なわれているが、その際、両国を結ぶ鉄道建設構想(「両廊一圏」)が話し合われている。

威信と利害と恩讐が複雑に絡まり一筋縄ではいかない中越関係史に照らすなら、このままスンナリと協力事業開始になるとも思えない。だがヴェトナムとすれば、今後の経済成長を見据えるなら、中国を軸として周辺諸国と結ぶ高速鉄道利用の国際物流ネットワークへの接続は望むところだろう。両国の基本的姿勢は、領海問題で対立しながらも陸上では手を握る。これを“虚実綯い交ぜ”の「双贏関係」と呼ぶに違いない。《QED》