【知道中国 2742回】 二四・九・仲六
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習408)
『華僑華人与西南辺疆社会穏定』は、ヴェトナム在住の少数民族出身の華僑・華人が中越関係に果たす役割を指摘する。さらに少数民族の華僑・華人を「西南地域に対する政治と安全保障の両面の役割から判断するなら、非華僑・華人の少数民族とは明らかに違う」と語ったうえで、「彼らは一定の『中国心』を持ち続けるばかりか、祖国に強い関心を示し、中国国内との間で、より密接な連携を求めている」と記す。
ここに示された「中国心」が具体的に何を指すのかは判然とはしないが、あるいは鄧小平が口にした「我々が求めるのはたったの1つ。愛国である」の「愛国」と考えても強ち間違いとも思えない。なにからなにまでを一括りにしてしまうことができるわけだから、「愛国」とはじつに便利極まりない2文字だ。「中国心」やら「愛国」を持ち出す辺りが統一戦線工作の妙だろうが、それにしても強引さが目立つ。
中国においては華僑・華人対策を一括して僑務と呼び、政府部内に国務院僑務弁公室と呼ばれる部局が置かれ、その長である主任は部長(大臣)クラスとされる。これほどまでに僑務関連工作は重要視されているわけだが、『華僑華人与西南辺疆社会穏定』では「僑務資源は我が国のみが持つ資源であり、殊に優れたものである。『僑を以て橋(むすびつ)け、僑を以て僑を引(つなと)め、僑を以て外を引(まね)く』とは、我が国が開発し利用する僑務資源が持つ効果的な戦略と成功の経験を示したものだ」とする。
その上で、かつて胡錦濤が示した僑務工作における3大特徴――①国内建設への貢献、②台湾独立勢力阻止と祖国の平和的統一、③民間外交の担い手――を示した後に「華僑・華人と西南辺境社会安定の相互依存の関係を振り返り、我われは満腔の確信を以て西南辺境社会の安定は僑務工作の中心的任務である」と力説することを忘れない。
ここにみえる「僑務資源」とは、具体的には海外在住の華僑・華人――漢族はもちろんだが、『華僑華人与西南辺疆社会穏定』の場合には殊に東は東南アジア大陸部からインド亜大陸以西に広がる地域に生きる少数民族の華僑・華人――を指すことになるが、僑務資源なるものを十分に活用することで、共産党政権は自国の西南地域の発展と安定を狙うだけではなく、東南アジアへの南進を補完する勢力として位置づけ、取り込み、利用しようと狙っているわけであり、現にそう画策し、動いているのである。
閑話休題。
ここで2012年に雲南省の国境一帯を歩いた際の記憶、メモ、写真などを基にして、『華僑華人与西南辺疆社会穏定』が主張する少数民族の華僑・華人の姿を素描してみたい。
この地域を詳細に描いた中国製の地図を見ると、ミャンマー、タイ、ラオス、雲南と国境を挟んだ一帯には「孟」、「芒」、「■(孟の右に力)」などの漢字を冠した地名を、また川に沿って「塔」や「打」を冠した地名に気づくだろう。前者はクニや集落を意味するタイ語の「muang」の、後者は港や船着き場を意味するタイ語の「taa」の漢字表記である。
芒の字の付く街のなかで最大規模が芒市で、ミャンマーと国境を接する雲南省徳宏タイ族景頗族自治州の中心都市でもある。
芒市の見抜きには「胞波路」と呼ばれる大通りがあるが、胞波とはミャンマー語で親戚・同胞を意味する「Baut Pow」の音を発音の近い漢字で表記したもので、ミャンマー在住の漢族の華僑・華人を指す。道路標識はタイ族、漢族、景頗族のそれぞれの文字で記されているが、もちろん真ん中の漢字が最も大きくて目立つ。道路標識からも窺えるよう住民の主流は飽くまでも漢族である。州名に記されたタイ族は漢字では「にんべん」に泰で、タイに住むタイ族とは異なりタイ族系のルー族で、景頗族は国境を越えたミャンマーではカチン族と呼ばれる。ならばカチンも少数民族の華僑・華人ということか。《QED》