【知道中国 2741回】 二四・九・仲四
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習407)
ここで身勝手が過ぎ、自己チューの最たる発言のいくつかを挙げておく。なお発言当時、彼らは共に共産党政権中枢における華僑・華人政策の実務担当責任者であった。
たとえば全国の華僑・華人を統括する中国僑聯の林軍主席は、
「海外に仮住まいするチベット同胞は海外僑胞の重要な部分であり、改革開放と現代化建設の重要な力である」(2009年7月)
政府(国務院)で華僑・華人政策を統括する部署の国務院僑務弁公室の李海峰主任は、
「新疆、チベット各族人民は中華民族という大家族の重要な構成員であり、国外のウイグル族やチベット族などの少数民族の僑胞は海外の華僑・華人社会の重要な構成部分である。新疆籍の少数民族僑胞と国外チベット同胞の大部分は愛国者であり、中国の統一を支持し、民族の分裂に反対している。『独立』を策動する者は頑迷な少数派に過ぎない」(2010年5月)
同じ弁公室で副主任を務める許又声は、
「国外チベット同胞を海外華僑・華人の仲間に加えることは、党中央・国務院のチベット対策方針の重要な調整であり、チベット政策に新たな理論上の突破口を切り開くものである」(2010年8月)
発言者の立場からして、これらを共産党政権の公式見解と考えて間違いないだろう。つまりダライ・ラマ14世以下の海外在住のチベット独立論者・活動家であったとしても、それらの人々を華僑・華人――現在、あるいは過去を問わず中国公民――と再定義することによって、チベット問題を国内問題として取り込んでしまおうと目論んでいるにわけだ。
チベット独立問題を華僑・華人問題(=国内問題)として一般化してしまえば、欧米諸国からの人権問題を絡めた批判を躱すことができる。チベット独立問題であろうが、ウイグルにおける人権問題であろうが、他の少数民族が抱えている問題であろうが、彼らに華僑・華人の大枠を嵌めてしまい国内問題化させてしまえば、国際社会からのどのような批判も、「内政干渉」の4文字で跳ね返すことが可能だ。こんな思惑に違いない。
この本では西南地区の歴史を踏まえた上で現状を捉え直し、西南地域出身の華僑・華人を567万人(広西=300万人、雲南=250万人、チベット=17万人)と数えあげ、その85%(480万人)を「少数民族華僑・華人」と再定義する。この数から類推して、残りの15%は中国本部から西南地区に移り、さらに海外に転じた漢族の華僑・華人になる。
少数民族の華僑・華人、具体的には苗族・回族・岱族・儂族・瑶族・壮族・景頗族などだが、彼らは60ほどの国と地域に居住している。その80%は西南地区と国境を接するヴェトナム・ラオス・タイ・ミャンマー・インド・ネパールで、さらに欧米に再移住する者も見られる。なかでもヴェトナムが最多の145万人となる。つまりヴェトナムには漢族以外に、先に示した少数民族の華僑・華人も多数住んでいることになる。因みに漢族の華僑・華人は160超の国と地域で暮らしている。
また21世紀初頭に国務院がサウジアラビア・トルコ・カザフスタン・インド・パキスタンなどで行なった2度の調査から、インドに13万人(11万人=チベット族、2万人=ウイグル族)、ネパールに3万人(チベット族)、パキスタンに2万人(ウイグル族)の少数民族系華僑・華人が在住しているとみられる。
この本は、東はヴェトナムから西はパキスタンにまで続く広大な地域に居住する少数民族系華僑・華人の役割を①辺境交易経済の担い手、②国境を跨いだ社会的ネットワークの担い手、③多文化共生に基づく「平和的共生」の担い手として捉え、いわば西南地域を取り巻く国際政治や安全保障の側面から、彼らの存在の意義を強調するのだが。《QED》