【知道中国 2737回】                      二四・八・念七

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習403)

鐘祖康は1990年には第1次陳水扁政権誕生に沸く台湾を訪れ、民主政治の熱気に接して後、香港に戻って民主化運動に参加した。

だが、「中国奴才文化(中国の奴隷文化)」に犯された中国人は民主政治とは程遠い存在だという現実に直面し、その原因を探ろうと思い立つ。2001年以来、香港で最も過激に台湾独立を叫ぶ「香港華人」の第1号に認定され、北京からは「台湾島内の台独分子以上に傲慢、デタラメ、無恥」との“勲章”を授けられている。

2003年にノルウェー籍夫人と共にノルウェーに移住。以来、同国政府の中国政策に助言を与える一方、「夷人」の方が凡ての面で中国人より優れている要因を根源的に掘り下げようと努めている――鐘祖康が自ら記している経歴を整理すると、こうなる。

やがて彼は『中國比小説更離奇(中国は小説より奇妙でキテレツ)』(玉山社 2009年)を著わすに到ったとのことだが、巻頭に「極めて奇怪なことは、中国人は万事に亘って礼を以って根本とするものの、じつは世界で最も人を欺く民族である」との一文を置き、同じ中国人ながら、いや中国人であればこそ、と思われるが、ともかくも中国政府と中国人に対する徹底した批判を展開している。

ところで「極めて奇怪な・・・世界で最も人を欺く民族である」との一節だが、著者である鐘祖康はモンテスキューの『法の精神』からの引用と記す。

 そこで、「台湾島内の台独分子以上に傲慢、デタラメ、無恥」な「香港華人」による『中國比小説更離奇』の記述から、漢族起源に関する主張のうち気になったいくつかを拾っておきたい。

「(最新の研究成果によれば凡ての人類はアフリカ起源であるはずが)中国大陸だけは政治的要因から、この世界的な研究成果を無視したままだ。その第1の理由は、中国政府が中国の学術界を厳格に規制・操作し、彼らに多大な政治的任務を負わせていること。中国人の起源問題は、その典型といえる。第2は大部分の中国の学者が熱狂的で盲目的な大漢、あるいは大中国主義者で占められていること。学者ではなくアジテーターだ」

「中国人は世界の広さを知らず、中国こそが絶対であり、凡ての外国人は野蛮で、中国を王と崇めていると盲信している。そこで、中国の基準で世界に対応しようとする」

「さらに許し難いのは中共の主張する民族主義が極めて極端で狭隘であり、その内実を政府が任意に定めるばかりか、デタラメ極まりない基礎の上に成り立っている。つまり中国人の民族主義は、中国人の始祖は中国の大地から生まれたという甚だナンセンスで科学的根拠が皆無である基盤に根ざしているということだ」

「中国人の起源は中国にはないという科学的に証明された厳然たる事実は、笑うべきことに中共当局のみならず多くの中国民族主義者にとっては断固として受け入れ難いことなのだ。民族主義こそ、中共統治者という溺れる者が掴む最後のワラとなっている」

 「アフリカで生まれた人類は何万年の時を経て進化して優れて文明国家の仁人君子となり、退化して中国に奸邪凶悪奴才小人を大増産してしまったことを思うと憂鬱極まりなく、中国人としては暗澹たる自己否定の深淵に陥ってしまう」

かくて鐘祖康は、古来中国の英雄豪傑が成功した秘訣は「臉皮要厚(ツラの皮を厚く)」し、「心要黒(より邪な心)」を持ったからだ、との結論に達する。

さすがに北京の独裁政権から「台湾島内の台独分子以上に傲慢、デタラメ、無恥」と断罪される「香港華人」だけのことはあると甚く感激してしまうし、熱烈な拍手を送りたい。であるからこそ、「臉皮要厚」「心要黒」との考えは大いに納得できる。だが、それにしても彼もまた中国人であるところが些か気になるところではある・・・のだが。《QED》