【知道中国 2724回】                      二四・七・念五

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習390)

 

稲、米、麦、高粱などの穀物、牛、羊、馬、猪(ブタ)、鶏などの家禽類、鍋、碗などの日用雑貨、枇杷、梨、桃子(桃)などの果物などに続き、これまた毛沢東バッチを胸に抹桌(テーブル拭き)、掃地(庭掃除)、拍蒼蝿(ハエ取り)、種樹(植樹)など手伝いに励む良い子たちが描かれている。

こうして幼児段階から漢字を覚えさせ、その漢字の組み合わせが形作る語彙を覚えさせ、共産党が求める国民像を分かり易く示しながら、共産党の思想や理想とする世界観に深く触れさせ、脳裏にシッカリと焼き付けようとする。

ここで文革期には投獄され、開放政策を機に名誉回復(1979年)された後、中共中央組織部副部長(82~84年)、中央委員(82~87年)、中央顧問委員(87~92年)を経て91年より改革派の雑誌として知られた『炎黄春秋』編集顧問などを務めた李鋭(1971~2019年)の次の指摘を、参考までに記しておきたい。

「胡錦濤たちは皆赤いネッカチーフをつけて成長した者で、ひとこと言えばそれで分かり、朝に指示を請い、晩にその成果を報告した。党は光栄、偉大、正しく〔以下、略〕」(『中国民主改革派の主張  中国共産党私史』岩波文庫 2013年)

「赤いネッカチーフ」とは、共産党の最基層の少年組織で「理想と目標は共産主義の実現」を掲げる少年先鋒隊員が首に赤いネッカチーフを巻いていることから、少年先鋒隊員を指す。少年先鋒隊から共産主義青年団を経て共産党へと進むのが、共産党中枢へのエリートコースの1つ。このコースを歩んだ胡錦濤や李克強らからすれば、常に「党は光栄、偉大、正しく」あらねばならなかった。これが共産党教育の必然というものだろう。

じつは言葉をテコにした思想教育は英語、日本語、朝鮮語などの外国語教育でもみられた。外国語を通して共産党の思想を身につけさせようというのだ。

英語教育に関する共産党版OSの一端は、たとえば1973年出版の『簡明英語語法』(湖北省中小学教学教材研究室編 湖北人民出版社)に示された例文に見ることができる。

●Down with the landlord class!(地主階級を打倒せよ)

●People of the world,unite!(全世界の人民よ団結せよ)

●I love Tien An Men in Peking.(私は北京の天安門を愛する)

●Imperialism,revisionism and all reactionaries are paper tigers.(帝国主義、修正主義と一切の反動派は張子の虎である)

●What is work? Work is struggle.(なにを工作と呼ぶのか。工作とは闘争である)

●Chairman Mao is our great teacher.(毛主席は我われの偉大な導き手である)

●The sea is deep,but our love for Chairman Mao is deeper than the sea.(海は深い。我われの毛主席に対する熱愛は海よりも深い)

●The October Revolution in 1917 brought Marxism-Leninism to China(1917年の10月革命は中国にマルクス・レーニン主義をもたらした)

●To serve the people is our happiness.(人民に服務することは、我等の幸福である)

●Imperialists will be imperialists;they will not change their aggressive nature.(帝国主義者はとどのつまり帝国主義者であり、彼らの侵略性が改まるわけがない)

●Socialism will certainly triumph over capitalism.(社会主義は資本主義に必ず勝利する)

――ここに挙げた限られた数の例文を読み返すだけでも、英語文法の学習者の脳髄を自らが理想とする基本理念で塗り固めようとする共産党の強い意志を読み取ることができるはず。そう、なにがなんでも“Only socialism can save China”なのである。《QED》