【知道中国 2696回】                      二四・五・卅

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習362)

1977年末、文革被害者に対する本格救済に動き出す。

11月には文革開始当時、教育環境秩序維持のために共産党中央・国務院・中央軍委・文革小組などによって大学から小学校までに派遣された工宣隊(正式名称は「工人毛沢東思想宣伝隊」)の廃止が正式に決定され、胡耀邦中共中央組織部長によって文革被害者の全面的名誉回復が行なわれた。因みに3年間で300万件近くの名誉回復がなされたとされる。

年末には習近平の父親である習仲勲が楊尚昆と共に広東省に送り込まれ、文革後遺症の一掃に乗り出すのであった。

手持ちで1977年11月出版は『奴隷們創造了歴史』(《奴隷們創造了歴史》編写組編 上海人民出版社)、『捻軍起義的故事』(安徽師範大学歴史系・《捻軍起義的故事》編写組 上海人民出版社)、『初昇的太陽(六場話劇)』(大慶職工、家属集体討論・孫維世編劇 人民文学出版社)、『李白詩選』(復旦大学中文系古典文学教研組選注 人民文学出版社)、『有吉佐和子小説選』(文潔若・葉渭渠訳 人民文学出版社)の5冊。ついでながら12月は『近代中国史話』(湖南師範学院《近代中国史話》編者組 人民出版社)の1冊。

先ず『奴隷們創造了歴史』だが、冒頭に掲げられた「編者的話」は、「少年児童はプロレタリア革命事業の継承者であり、幼い頃から先人が握る紅旗を受け継ぎ、党と毛主席が導いたプロレタリア革命路線に沿ってプロレタリア階級独裁、共産主義実現の理想のために『好好学習(しっかり学んで)』『天天向上!(日々精進)』しなければならない!」「革命事業を継承するためには、幼い頃から先人と同じようにマルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想をシッカリと身につけ、革命理論によって行動に筋道をつけ、思想を武装しなければならない」と煽り立てる。

このような視点に立ち中国史のみならず世界史的レベルから「奴隷制は人類社会が階級対立を基盤にして築いた最初の搾取制度であり」、封建制度であれ資本主義制度であれ、その基本は奴隷制から発展したものである。「奴隷制という旧く野蛮な制度を根絶させてこそ」、人類に降りかかる一切の不幸を阻止することができる――この辺りを、『奴隷們創造了歴史』は「プロレタリア革命事業の継承者」に、繰り返し熱く説いている。

四人組時代に出版された同じような主張の児童書と較べてみると、マルクス、エンゲルス、レーニン、スターリンの著作からの引用は見られるが、毛沢東の著作からの引用が極端に少なく、文革前に出版された児童書を彷彿とさせる。ということは当時の共産党中枢に「プロレタリア革命事業の継承者」に対し文革以前に行なわれていた歴史教育を施すことを企図する、あるいは四人組による権力壟断時代の極端な歴史認識を修正しようとする動きがあったようにも思える。

『捻軍起義的故事』は、19世紀半ばの太平天国の乱と同じ時期に華北で起こった「捻軍」と呼ばれる反清武装叛乱の経緯(起⇒武装蜂起から敗北⇒清朝による制圧)を詳説しながら、失敗の原因を「捻軍にゴロツキやら中小地主分子やらのウジ虫どもが混入し」、「革命隊伍の純潔さが失われた」点に求めている。これを言い換えるなら、四人組という「ゴロツキやら中小地主分子やらのウジ虫どもが混入し」たことで、文革の「革命隊伍の純潔さが失われた」ことを匂わせているようにも感じられる。はて、深読みだろうか。

『初昇的太陽(六場話劇)』は大慶油田一帯を舞台に、工業と農業、都市と農村、なによりも家族が一丸となって毛沢東思想に従って革命事業に邁進することで「共産主義社会の一日も早い実現」を目指そうと謳い上げる話劇(現代劇)の台本である。

『奴隷們創造了歴史』『捻軍起義的故事』『初昇的太陽(六場話劇)』に共通するキーワードを探ると、四人組否定は当然のこと「文革以前」の4文字が浮かんでくる。《QED》