【知道中国 2695回】                      二四・五・念八

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習361)

少年への呼び掛けは、「レアアースの世界を知り、この世界のメンバーの性格、長所を理解することは、それらをより良く改造するためであり、それらを利用して社会主義の革命と建設事業に服務させるよう利用するためなんだ」と、続く。

本文ではレアアースに関する知識を少年向けに分かり易く懇切丁寧に解説している。先ず各種レアアースをキャッチコピー風に次のように紹介している。

――「最も軽い万能金属」(リチウム)、「光電管からイオン・ロケットまで」(ルビジウムとセシウム)、「ルビーの中の“先端金属”」(ベリリウム)、「新型の“空間金属”」(チタン)、「超高温の“好敵手”」(タングステンとモリブデン)、「“烈火金剛”と“抗蝕冠軍”」(ニオブとタンタル)、「原子エネルギーの“親友”」(ジルコ二ウムとハフ二ウム)、「変幻自在3兄弟」(ガリウム、インジウム、タリウム)、「電子工業の“食糧”」(ゲルマニウム)、「稀土金属17姉妹」(レア・アース・メタル)、「原子炉の“燃料”」(ウラン)――  

それぞれのレアアースの特徴を捉え、少年に興味を持たせるような巧みで判り易い表現には正直言って恐れ入るしかない。昨日までの文革調の毛沢東思想的正義に満ち溢れた煽り表現――裏返せば、虚しいばかりに勇ましい政治的大言壮語――がまるでウソのようだ。

それぞれのレアアースを紹介した後、「探宝找鉱」の章では採掘の方法と機材、稀少金属が埋蔵されている鉱床の特異環境を解説し、さらに「レアアースを発見したら各地の生産隊や人民公社など関係機関に直ちに報告せよ」と、少年を激しく煽り立てる。

次章の「従鉱石到金属」では採鉱から精錬への過程を解説しているのだが、奇妙なことに、毛沢東思想に従って頑なに否定し蔑んだはずの知識人に、わざわざ「労働」の2文字を冠し「社会の財産は労働者、農民、それに労働知識分子が自らの手で創造するものなのだ」と特筆大書している。文革中は社会の害虫やゴミの烙印を押し、人間扱いをしてこなかったはずが、いまや、なんと、晴れて「労働知識分子」として復活したのだ。たしかに新しい時代に向かっての社会の胎動が感じられる。

そして最後に「昨天、今天和明天(昨日、今日と明日)」と題する章を置く。

過去には稀少金属という存在を知らなかった。無用なものとして大量に捨てていた。だが科学の進歩によって、それらは近代科学技術、ことに原子力エネルギー、航空、宇宙、通信、軍事、半導体などの方面に必要不可欠であることが判ってきたと、中国における稀少金属の「昨天、今天和明天」を語る。

さらに「我が国はレアアースの宝庫であり、世界的にみても稀有なほどに豊富な鉱床を持ち、各種レアアースの保有量は如何なる資本主義国家をも凌駕している。ここに、我が国がレアアース工業を発達させうる確固とした物質的基礎がある。親愛なる少年読者よ! 社会の生産と科学技術の発展にも、レアアースの世界を知ることにも終わりはない」と未来を展望し、少年たちに新たな目標に向かって邁進せよと、叱咤激励の声をあげる。

ここから毛沢東思想が国民に無理強いした「専より紅」という“悪魔の囁き”を脱し、「紅より専」の現実路線へのコペルニクス的転換を読み取ることができるはずだ。つまり、「今20世紀内で“四つの近代化”強国建設」に向けて若者に強く求められるのは「紅(毛沢東思想)」ではなく「専(専門知識・技術)」なんだ、という。

レアアースをめぐって現在の習近平政権が内外に向けて打ち出す超高姿勢は、文革から対外開放の時代への狭間に種播かれたようにも思える。振り返ってみるに、1970年代末期、はたして我が国でレアアースの将来性に関する少年向けの解説書出版されていただろうか。

因みに1978年の日本では成田空港が開港し、ディスコブームが起こり、原宿に竹の子族が出現し、ガルブレイスの『不確実性の時代』がベストセラー入りしている。《QED》