【知道中国 2694回】                      二四・五・念六

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習360)

発掘現場を見学した貧農の1人は怒りを込めて「考古工作は古代の珍奇な事物を考えることではなく、飽くまでも階級闘争を考察しなければならない。数千年昔の人骨には我ら労働人民の深い恨みが刻まれ、瓦の欠片には我ら労働人民の血の涙が染みこんでいる」と憤激し、解放軍の指導員は「敵は決して仁政など布かない。我々は銃を固く握りしめ、破壊と暴虐の限りを尽くす階級の敵を根絶やしにし、真紅に染め上げられたプロレタリア階級独裁の山河を断固として死守する」と決然と誓った――と記している。

「歴史遺産」を政治教育の「教室」であり「戦場」だと思い込めばこその“決意表明”といったところだろうが、どう考えても解放軍指導員はともかく、貧農とやらが“かくも高貴な社会主義的自覚”を抱いているなんぞ、やはり眉ツバものだろう。

それにしても、この“驚愕の事実”を深読みするなら、「偉大的領袖」による1949年の建国以来30年ほどが過ぎたにも拘わらず、毛沢東の政治は社会の底辺から貧農を掬い上げることができなかったことを共産党当局が自ら告白しているようなものだ。

「マルクス、エンゲルス、それにレーニンによる中露関係史に関する英明な判断に反する」にもかかわらず、「黒龍江、ウスリー江流域は古来、中国に属せず」と強弁を続け、「ロシア帝国による中国領土強奪という大罪を弁護」しているとの視点に立って、『駁謊言製造者』は「ソ連社会帝国主義・修正主義の強盗行為」を激しく糾弾する。

1974年に公表された学術論文を軸に5本の論文を収め、最後に「ソ連修正主義の方々に告げておく。植民地主義の古い道は永遠に断たれた。やはり幻夢を夢見ることは止めようではないか!」と、傲然と言い放つ。

振り返ってみれば、1950年代末期から華々しく展開された中ソ論争や1969年の全面戦争一歩手前までエスカレートした中ソ国境武力衝突に象徴される中ソ対立は、たしかに中国内政を大きく揺さぶった。文革にしてもソ連の脅威に対する国論の統一といった要因があったことは否めない。1972年に世界をアッと驚かせたニクソン電撃訪中も、ソ連の脅威に対する大きな危機感が毛沢東の背中を強く推したことは確かだろう。

そこで考えるのだが、毛沢東死去から四人組崩壊を経て華国鋒政権発足へと進んだこの時期に『駁謊言製造者』が出版された背景には、国民の間に反ソ意識を再認識させ、華国鋒政権への求心力を高めよう、言い換える危機感と敵愾心を煽ることで民族主義を昂揚させ政権基盤を強固にしようという狙いがあったに違いない。

『語文学習叢刊 1』は「言葉は階級闘争、生産闘争、科学実験に従事する重要な手段」(「前言」)の立場から、言語表現上の様々な問題を扱う学術論文やエッセーを掲載する一種の学術雑誌である。

もちろん、なかには「四人組を徹底批判し、言語教育の質と量を高めるよう努力しよう」などと題するキワモノ的論文も見受けられるが、多くが冷静に言語教育を論じている。これまでも屡々言及しておいたが、政治状況の如何に拘わらず冷静に言葉を究めようとする姿勢は、やはり注目しておきたい。あるいは、ここら辺りに、彼らの思考回路のカラクリを解くカギが秘められているのかもしれない。

『稀有金属世界』を手にして先ず不思議に思うのは、巻頭に『毛主席語録』からの引用が見当たらないこと。代わりに置かれた「致少年読者」は、

「親愛なる少年読者よ、この小さな書物で我々は君たちに稀少金属(レアアース)の夢のような世界を紹介しよう。この世界の何十ものメンバーは性格が異なり、それぞれが特徴を持ち、我々の生産と生活、国民経済の各部門、国防建設と科学技術の発展に全て密接な関係を持つんだ。世界を識る目的は世界を改造するためなんだ」と呼び掛けた。《QED》。