【知道中国 2682回】                      二四・五・初二

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習348)

 最初の「ナゼ四人組は偉大な指導者の毛主席に一貫して対抗し、マルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想をデタラメに改竄し、毛主席の指示を執行せずに歪曲し、毛主席の戦略部署に干渉し破壊したか」から12番目の「ナゼ四人組は一切を打倒し、我われの社会主義革命と社会主義建設の偉大な成果を根本的に否定し、我が党とプロレタリア階級の専制政治をネジ曲げ、社会主義の文化事業と経済事業に狂ったように痛打を与え、革命を破壊し、生産を壊滅させたのか」までを読んでみた。

さすがに文字の国だけあって悪罵の表現は見事と言うしかない。罵倒文学の極致といったところだが、とどのつまり悪いから悪い。四人組は悪い。悪いから四人組。なんのことはない堂々巡りでエンドレス。

 この論文は「四人組は口では自分たちこそ左派であり過激派だと標榜していたが、以上のように分析してみるならば、彼らが党に対し、プロレタリア専制政治に対し、社会主義革命と社会主義建設に対し持ち続けた態度の化けの皮がたちどころに剥がれてしまうのだ。彼らは党とプロレタリア専制政治に悪意をもって攻撃を加えるブルジョワ階級の右派であり、社会主義革命を全面的に否定し根底から覆そうとする反革命派である。彼らが推し進めたのは、これ以上は右に曲がれないほどに極右の反革命修正主義路線である」と、強引に結論づけるばかり。

別に四人組を弁護する積もりも同情するつもりもあるわけはないが、劉少奇やら林彪批判にも通じて、まさに批判というより徹底した罵詈雑言のジュウタン爆撃に近い。問答無用で一刀両断ではあるが、実態は牽強付会で支離滅裂と表現しておくのがよさそうだ。この辺りから考えて、どうやら共産党における権力闘争の冷酷非情ながら抱腹絶倒の姿が浮き上がってくる。その意味からして、鄧小平式敗者復活は“超奇跡”なのだ。

鄧小平復活の1977年5月出版で手許に置いてあるものは、『除四害雑文集』(人民出版社)、『農村文芸演唱叢書 華主席揮手我前進(曲芸演唱集)』(中国人民解放軍広州部隊政治部歌頌華主席文芸写作組 人民文学出版社)、『在新標準面前(独幕話劇)』(北京話劇団・陳国栄等編劇 人民出版社)、『起跑線上(独幕話劇)』(鉄道部四方汽車車輌廠工人・符加雷編劇 人民文学出版社)、『紅小兵歌舞 魚児献給解放軍』(上海市文化局群衆文芸組編 上海人民出版社)、『科学童話 一顆小水滴』(彭鑫根 上海人民出版社)の6冊。

ザッと全体を紹介しておくと、四人組を罵倒し、華国鋒を大いに讃え、過剰なイデオロギーを排し、改めて毛沢東思想の根幹である実事求是を学ぼうという基調で貫かれている。

先ず『除四害雑文集』だが、除かれるべき「四害」が四人組を指していることは明々白々。『人民日報』『解放軍報』『光明日報』『北京日報』など当時の代表的メディアに掲載された四人組批判の「雑文」を収めてある。

全頁に踊るのは野心家、陰謀家、流氓(ゴロツキ)、地痞(地回り)、陰謀狂、整人狂、野心狂、復辟狂、反党集団、害人虫、棍子、特務などの凶々しくも小気味いいほどの罵詈雑言の数々だ。なお「整」は「言われなき罪で他人を貶め政治的・社会的に抹殺」の意。

論文とも評論とも肌合いの違う雑文形式だけに、悪罵文学の特徴でもある切れのいい文章が躍動している。同時に、それぞれの雑文の書き手が「いざ、極悪至上の悪漢を成敗してくれようぞ!」と嬉々として意気込む様子が行間に溢れ、なんとも微笑ましい限りだ。

ここで古典京劇の隠れた名狂言「除三害」がフト思い浮かんだ。西晋(265~290年)が舞台で、清官(正義の官吏)が一帯を恐怖に陥れる3悪人(「三害」)に対し正義の鉄槌を下し、民百姓に安寧をもたらすという粗筋。「四害」を「三害」に、華国鋒を清官に見立てればドンピシャ。「除四害」の3文字が芝居掛かっていて・・・笑えマス。《QED》