【知道中国 2678回】                      二四・四・念四

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習344)

年が改まると、共産党政権は毛沢東の死と四人組打倒という異常事態の中で、華国鋒政権の正統性を内外に強く訴える一方、四人組が目論んだ党の乗っ取りという天をも、いや「偉大的領袖毛主席」をも恐れぬ“極悪犯罪”の告発に躍起となる。

1977年1月出版分で手許に架蔵しているのは『呂后其人 ――呂后及諸呂叛国簒権資料選訳』(北京汽車製造廠工人理論研究所 中華書局)、『“四人幇”的要害是簒党奪権』(北京人民出版社)、『《学点歴史》叢書 義和団反帝闘争』(天津市電子儀器廠工人理論組・天津市歴史研究所近現代研究室 人民出版社)、『《斉民要術》選注』(広西農学院法家著作注釈組 広西人民出版社)の4冊。

前の2冊は四人組に対する“理路整然”とした批判ではない。素直に読み進むなら言い掛かりであり、激烈な罵詈雑言集といったところだ。つい2、3ヶ月前まで配下の筆杆子(知的茶坊主)を使って林彪や孔子に向かって投げつけていた“悪罵の爆弾”が形勢逆転して我が身に降りかかってきた。自業自得というわけだ。

それにしても、である。古典やら史実から引っ張り出してきた故事をパッチワーク状につなぎ合わせ、壮大で激越な罵倒文学を書き上げてしまう手練のワザには頭を下げざるをえない。流石に“文字の国”と呼ばれるだけのことはある。

『呂后其人 ――呂后及諸呂叛国簒権資料選訳』は、「華国鋒同志を首(かしら)とする党中央は毛主席の遺志を継承し、王洪文、張春橋、江青、姚文元が企んだ党を簒い権力を掠め取ろうとした極悪非道な陰謀を断固として果断に粉砕し、党のために大奸を除き、国のために大害を屠り、民のために大きな怒りを平らかにした。八億人民はどれほど心が昂揚したことだろうか。どれほどまでに歓喜し舞い踊ったことだろうか!」と、興奮冷めやらぬ調子で書き出される。

結論を先に言うなら、江青を漢帝国を打ち立てた高祖・劉邦の妻である呂后に見立て、彼女を頂点とする呂一族よる漢王朝の政権掌握を「叛国簒権」と位置づけ、『史記』や『漢書』などの正史に記された関連部分を徹底解明することで、四人組の犯罪を完膚なきまでに告発し、国民に訴える。

かくて「四人組は呂雉(呂后)より数段も暴虐残忍で危険である」ことを「早くから見抜いていた毛主席は『江青には野心あり。彼女は王洪文が委員長に、自分が党主席に就くことを企んでいた』と極めて的確に見抜いていた。江青は呂后となって政権を握り、社会主義中国を半封建半殖民地社会にしようと目論んだ」と“告発”する。

そして「我々は華国鋒同志を首(かしら)とする党中央の周囲にシッカリと団結し、毛主席の意義深い教えを永遠に心に刻み、〔中略〕毛主席が我々に引き継がせた革命事業を担い、徹底し、今世紀内に農業・工業・国防・科学技術の現代化を実現するため、最終的に共産主義を実現するため奮闘しよう」と、“予定調和的結論”にたどり着くことになる。

考えてみれば、孔子が林彪批判のダシに使われたとおなじように、江青・四人組を批判するために2000年以上も昔の歴史の彼方から、呂后は引っ張り出されたことになる。「借古諷今(古を借りて今を批判する)」という政治闘争における典型的な手法ではあるが、孔子にしても呂后にしても、さぞやハタ迷惑なことだろうに。

考えてみれば批林批孔運動にしても、梁効や羅思鼎などの筆杆子が縦横無尽に暗躍したわけだが、四人組批判に当たっても、新たな筆杆子が登場したようではある。まったく筆杆子には事欠かないとも思えるが、ヒョッとして同じ筆杆子が時の権力の注文に変幻自在に即応し、カンバンを書き換えて中国共産党版の“絶対的正義”のデッチ上げに刻苦勉励・勇猛邁進しているのかもしれない。まったくヘコタレナい方々ではある。《QED》