【知道中国 2669回】                      二四・四・初六

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習335)

「前言」を読み進むほどに恥ずかしさが増す『看革命文物 学革命伝統』は、要するに「無数の革命先烈」が使っていた時計や鞄やランプなどの身の回りの品物や、宣伝パンフレットなどを写真で示し、「革命の伝統を子々孫々に継承しよう」と呼び掛ける。

 たとえば1935年5月、「長征」の途次、現在の四川省涼山まで逃げ延びてきた共産党主力部隊は存亡の危機に直面した。

前方には共産党を敵視する剽悍な少数民族で知られる彝族の集落が待ち受け、後方からは国民党部隊の追尾が執拗に続き、追撃はいよいよ激しくなる。まさに前門の虎、後門の狼である。その苦境を切り抜ける道を、共産党は得意の宣伝戦に賭けた。そこで「紅軍総司令 朱徳」の名で以下の「中国工農紅軍佈告」を明らかにした。

 「中国工農紅軍は弱小民族解放す。凡ての彝族と漢族は血肉を分けた兄弟だ。恨むは四川の軍閥で、彝人を骨まで食べ尽くす。苛斂誅求限りなく、そのうえ妄りに人殺す。紅軍万里の長征は無敵の進軍、破竹の進撃。四川西部に到着し、彝人の生活尊ばん。軍規十分厳命で、粟一粒も奪わない。糧食買い付け公正で、代金きちっと払います。我が同胞の彝族の民よ、我らを疑い恐れるな。直ちに共に立ち上がり、軍閥どもを駆逐せん。彝人の政府を打ち立てて、彝族管理は彝族によって。真の平等・自由を持てば、他からの恥辱はね除ける。宣伝工作力を尽くし、四川西部に広めよう」

 『看革命文物 学革命伝統』には「中国工農紅軍佈告」の写真が掲載され、「各種形式の宣伝工作を通じ、広範な彝族の同胞は、誰が彼らの真の同胞で、誰が敵であるかを明確に知り得た。これ以降、彼らは中国共産党に率いられた工農紅軍こそが我が国各民族人民にとっての自らの隊伍だということを深く認識するに到った。紅軍への参加を自ら強く求め、紅軍と共に戦線に赴き、敵を追撃する彝族の若者もあった。かくて紅軍は勝利のうちに彝族居住区を順調に通過したことで、我が軍は時間を稼ぐことに成功した。これこそ紅軍長征途上の勝利の凱歌の一曲であり、同時に毛主席と党の民族政策における輝かしい勝利だ」と、過剰なまでに“懇切丁寧”な解説が続く。

 だが、これはタテマエに過ぎない。現在に続く少数民族の苦境は、「毛主席と党の民族政策」が実態として漢族至上主義であることを物語る。習近平政権の少数民族に対する一連の苛酷な政策も「毛主席と党の民族政策」を忠実に踏襲しているとしか考えられない。

ともあれ、昔も今も、そしてこれからも、共産党にとって唯一最強の武器が宣伝であることに違いはないはずだ。

『武術初級套路』は武術愛好者の自学・自習用といえようか。「初級長拳」「初級剣術」「初級刀術」「初級槍術」「初級棍術」を1冊に纏め、長拳(素手)、剣(細身の直刀)、刀(青龍刀)、槍(槍)、棍(棒)を使った武術の基礎を体系的に紹介し、初心者の稽古に適すように簡にして要を得た解説がされている。武術の型に合せてイラストが付けてあり、それを見ているだけでも楽しくなる。

たとえば長拳のうちの「三、馬歩冲拳」をみると、両足を肩幅の倍ほどに開いて腰を落とし、左腕を腰ダメに、前に突き出した右腕の先から点線が右向きに付けられている。腕を右のほうに動かせ、ということだろう。このイラストを見ただけでも、「馬歩冲拳」の動きはほぼ想像できるというもの。

そこで目をイラストから解説に転ずると、「右足を前方に向け、つま先をやや内側に。上体を左にひねる。左の拳は腰の辺りに置き、蹲踞の姿勢をとれば馬歩になる。右腕を前方に激しく突き出す。視線は右の拳を追う。要点:馬歩をとる際は両の大腿部が真っ直ぐになるよう腰を深く落とす。両足膝下は平行に、踵は外側にして、胸を張る」《QED》