【知道中国 2663回】 二四・三・念五
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習329)
1976年6月の四人組の動きは、まるで“嵐の前”を思わせるように静かだ。
敢えて拾ってみるなら、18日に中共中央政治局名で「資本主義の道を突き進んでいる指導者は、すでに労働者の血を啜るブルジョワ階級分子に変質しているか、いままさに変質しつつある」を骨子として1964年12月12日に毛沢東が発した指示を公布し、23日には王洪文が「親玉を捉まえ、幹部を引っ捕らえなければならない」と言ったことが記録されている程度である。
21日には革命の元勲で人民解放軍の生みの親である朱徳の病状が悪化し、3日後の26日には入院している。同じ26日、毛沢東は2度目の心筋梗塞を発し、一命はとりとめたものの栄養を鼻から補給する状態が始まり、この日を境にして華国鋒、張春橋、王洪文に加え、毛沢東警護部隊司令官の汪東興が輪番制で身辺に控えることとなる。
6月出版分で購入したのは『晁錯集注釈』(《晁錯集注釈》組注 上海人民出版社)、『歴史知識読物 方蠟起義』(北京汽車製造廠工人理論組 中華書局)、『政治経済学問題解答』(北京第二毛紡廠工人理論組・北京師範大学政治経済学系政治経済学組等編写 人民出版社)の3冊だった。
『晁錯集注釈』は晁錯(前200~154年)の法家ぶりを讃える1冊で、これまでに出版された晁錯モノの焼き直し。『歴史知識読物 方蠟起義』は1120~22年の間、福建、安徽を舞台にして起こった農民叛乱を指導した方蠟を讃える評伝である。
「方蠟起義からすでに8世紀半の時が過ぎた現在、時代も違えば人民闘争の任務も異なる。中国のプロレタリ階級の政党である中国共産党は農民を包括する全国人民を領導し、早くも新民主主義革命の勝利を勝ち取り、いままさに勝利に向けて社会主義革命を推し進めている。プロレタリア階級が担っている全人類解放という偉大な歴史的使命は、歴史上の農民革命とは比較しようがない。
だが農民革命の全ての経験を総括することは、今日の闘争にとって有益である」との立場から、「方蠟が指導した農民の武装蜂起の経験は、今日の闘争にとって極めて有益である」と続け、「新たな生産力、新たな生産関係、新たな階級の力と前衛政党を持たなかったことが、究極的な失敗に繋がった」と総括し、「死んでもたじろぐことなき革命への気骨」との“常套句”を付け足すことを忘れてはいない。
一読して思ったのは、やや高尚に表現するなら四人組が目指した毛沢東思想原理主義にとっての“滅びの美学”であり、やや辛辣に考えるなら“引かれ者の小唄”であった。いやヒョッとして、この当時の四人組は騎士道物語を読みすぎで現実と物語の区別がつかなくなり、自らを遍歴の騎士「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」と思い込んで冒険の旅にでた中年の鄕士の“心意気”に近づいていた。ならば四人組にしても、ドン・キホーテが風車を難敵に見据えたように、革命という幻想を標的に突進するしかなかっただろう。
『政治経済学問題解答』は、「広範な工農兵や基層幹部が偉大なる領袖毛主席のプロレタリア階級独裁理論問題に関する重要な指示を学習するために」、北京師範大学政治経済学系政治経済学組をはじめとする関係機関に依頼して作成した「内部」用の問題と解答である。
プロレタリア階級独裁、社会主義生産資料資源所有制、社会主義生産過程における人間関係、労働分配、商品生産、貨幣と貨幣交換、資本と資本主義、小生産の8項目の大きな問題を設定し、各項目を細分化して詳細に懇切丁寧に解説している。いわば、これさえ押えておけば、「偉大なる領袖毛主席のプロレタリア階級独裁理論問題に関する重要な指示」を身につけることができる、といった類の“仕掛け”らしいのだが。《QED》