【知道中国 2659回】 二四・三・仲七
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習325)
もう少し要約を続けたい。
「水害・干害・虫害などの自然災害に毎年のように襲われ、飢餓や労役の犠牲者が『満道白骨交横(どこの道も白骨だらけ)』という悲惨な情況を大胆に明らかにし、このような災難は『王権』の腐敗こそが生み出したものだと鋭く指弾する」
そして彼は「繰り返して農業の重要性を明らかにし、『力能勝貧(努力は貧乏に打ち勝つ)』という思想を熱っぽく説く」だけでなく、「孔子や孟子などのように働く人民を蔑視し、生産労働を軽視し、『不事農桑、専尚空談、不耕而食、不織而衣(農耕もせずに無駄口を叩くだけ。野良仕事をしないくせに喰らうでけではなく、織物もしないのに着るものは着ている)』といったデタラメを殊に蔑み嫌った」
「彼は『人定勝天(人は必ずや天に勝つ)』という素朴唯物主義思想を継承し、農業生産の良否は天から授かる恩賜や懲罰ではなく、人民の力量にあるとみていた」。「こういった思想は、孔子や孟子の流派が高らかに宣命する『死生有命、富貴在天(人生も富貴も天の思し召しのまま)』といった『天命観』や、農業生産における『靠天吃飯(天に縋って生きる)』などの唯心主義思想と鋭く対立するものだ」
「彼は豊富な経験を持つ老農民から教えを授かり、農業に関する伝承や歌謡を重視し」、「民衆の実践経験を重んずる思想に導かれ、先人の研究成果と積み重ねられた豊富な生産経験を極めて高く評価し」、「その科学性を検証するため、常に自ら生産労働に参加した」。その唯物主義は不徹底だが、「『斉民要術』は我が国労働人民の智慧の結晶である」。かくして、「プロレタリア階級独裁を強固にし、我が国社会主義農業科学技術事業を発展させ、農業の機械化と現代化を実現させるため、さらなる貢献をなそう」――
以上、やや詳しく要約してみたが、『《斉民要術》及其作者賈思勰』の読後感を“正直”に綴るなら、威勢のいい政治的スローガンが虚しく書き連ねてあるだけではないか。
たしかに毛沢東は「人民群衆は無限の創造力を持つ」と教えているが、『斉民要術』から「プロレタリア階級独裁を強固に・・・」との教訓を学び取るとは、驚くばかりに凄まじい「底なしの想像力」だとは思うが、その牽強付会ぶりは“革命的”と言っておきたい。
『積極推広普通話』を読みながら、半世紀ほど昔の香港留学時、同じ研究室の先輩で広東省台山県出身の麦さんを思い出した。彼の喋る台山語は研究室仲間の広東人でも莫明其妙(チンプンカンプン)。麦さんは独りぼっち。だから中国古典を話し相手にニコニコ、コツコツと研究を重ねるしかなかった。
京都大学大学院での2年ほどの研鑽を積んで戻ってきた麦さんと話をしていると、研究室の先輩たちが「たいしたもんだなあ。感心したよ。麦と話が通じるなんて、いつ台山語をマスターしたんだ」と感激の態。最初は何のことやら判らなかったが、じつは麦さんがマスターした日本語で2人でバカをいい合っていただけ。
どうやら広東人は台山語と日本語の区別ができそうにない。中国には方言は数限りなく存在し、台山語だか日本語だかワケが判らない。このように言葉は通じなくて当然当であり、同じ中国人だからといって支障なく通じたらオカシイ。だが、それでは困る。じつに都合が悪い。そこで『積極推広普通話(積極的に共通語を広めよう)』となるわけだ。
たとえば人民解放軍で。江西省の一部では「黄」と「王」の区別がつかない。「上」と「向」、「七」と「一」、「趙」と「邵」と「曹」の発音の違いが判らない地方もあれば、「子弾(銃弾)」と「鶏弾(卵)」、「集合」と「集火」の音が混同する地方もある。
そこで戦場で上官が、「黄同志、子弾を7発。趙同志、全員を集合させよ」と命令したとして、どんな珍現象が起こるのか。はたしてマトモに作戦が遂行できるのか。《QED》