【知道中国 2657回】                      二四・三・仲三

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習323)

四人組の底なしの権力欲に向かって無告の民の不満と怨嗟とが渦巻いた1976年4月30日夜、中国訪問中のニュージーランド首相との会談を終えた毛沢東は、華国鋒から全国の状況に関する報告を受けた後、やおら鉛筆を手に取り、かの有名な「慢慢来、不要着急」「照過去方針弁」「你弁事、我放心」と走り書きし、“後事”を託すこととなる。

「慢慢来、不要着急(ユックリとやれ、焦るな)」「照過去方針弁(過去の方針に従って事を進めよ)」「你弁事、我放心(アンタがやってくれたら、ワシは安心)」の漢字19文字のメモ程度が、強大な共産党権力委譲の根拠になるとは、やはり奇妙奇天烈・奇怪千万だ。

かく異常で異様な4月の出版で手許に架蔵しているのは『簡評《水滸》』(丘振声 広西人民出版社)、『《水滸》評論集』(上海人民出版社)、『法家人物故事 〈3〉』(上海人民出版社)、『歴史知識読物 賈誼和晁錯』(北京汽車製造廠工人理論組 中華書局)、『青年自学叢書 国際共産主義運動簡史(1848―1917)』(上海師範大学政治教育系・《国際共産主義運動簡史》編写組 上海人民出版社)、『《学点歴史》叢書 《済民要術》及其作者賈思勰』(浙江農業大学理論学習小組 人民出版社)、『積極推広普通話』(本社編 文字改革出版社)、『中国人名地名拼写規範化問題』(文字改革出版社)、『朝鮮語自学読本 第二冊 会話』(朝鮮語系朝鮮語教研組編 延辺大学)の計9冊である。

水滸伝モノと法家モノの屋上屋を重ねるような記述に新鮮味がないことは言うまでもないが、興味深いのは賈誼(紀元前200~168年)と晁錯(紀元前200~154年)の2人の法家の事績を綴る『歴史知識読物 賈誼和晁錯』が「社会主義の全歴史段階を通じブルジョワ階級の復辟とプロレタリア階級の反復辟の闘争は一貫して継続する。“走資派は生き続ける”とはまさに長期に存在する社会現象である」と、ブルジョワ階級に対する永久革命を強く訴えている点だろう。

かくして『歴史知識読物 賈誼和晁錯』は、最後を次のように勇ましくも結んでいる。

「我々はマルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想を刻苦勉励して学ばなければならない。より重要な点は歴史の経験を総括し、さらに現状に関する調査を重視し、階級闘争の方向をしっかりと見据え、階級の敵による反革命策略を研究し、階級闘争という綱をしっかりと握りしめ、党の基本路線を堅持し、あらゆる領域においてブルジョワ階級に対し独裁を実行し、プロレタリア階級独裁下における継続革命を徹底して推し進めよう」

この部分だけでも原文を大声で読んでみると、読み進むほどに気分が高揚してくるから奇妙・奇態・妙・不思議。やはり、これは政治的サウンド効果を秘めた政治的呪文だ。

『国際共産主義運動簡史(1848-1917)』は毛沢東の死の5ヶ月前、四人組逮捕の半年前に出版されている。

表紙を開くと先ず目に飛び込んでくる『馬克思 恩格斯(マルクス エンゲルス)語録』には、「共産党人は己の観点と意図を覆い隠すことを潔しとしない。眼前の全ての社会制度を暴力によって転覆させてこそ己の目的が達成できることを高らかに公明正大に宣言する。支配階級をして共産主義革命の面前で慄然とさせしめよ。この革命においてプロレタリアが失うものは手枷と足枷のみ。そして獲るものは、世界の全てだ」とある。

次の『列寧(レーニン)語録』は「プロレタリア階級が勝利を獲るために準備する必要条件の1つは、長期の頑強で非情な闘争を進め、機会主義、改良主義、排外的愛国主義、この種のブルジョワ階級の影響と思潮に反対することである。この種の影響と思潮は不可避だが、それはプロレタリア階級が資本主義の環境で行動するからだ。こういった闘争を進めず、労働運動における機会主義に予め完全に勝利しなければ、プロレタリア独裁など根本的に語るには及ばない」と続く。これも空しく響く政治的呪文の類だろう。《QED》