【知道中国 2647回】 二四・二・念二
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習313)
15日、上海では港の停泊中の大小の船舶が追悼の汽笛を鳴らし、中心街の信号は赤に変り警察官も通行人も一斉に立ち止まり頭を垂れ、北京で周恩来追悼大会が開かれた午後3時には内外の船舶が汽笛を一斉に鳴らしている。
午後3時に北京の人民大会堂で追悼大会が始まり、中共中央を代表し鄧小平が追悼の辞を述べた。やがて遺灰は「祖国の大地」を覆う暗闇の空に撒かれた。こうしておきさえすれば将来、どんな時代になろうと墓を暴かれ骨を曝される屈辱だけは避けられるはずだ。
じつは当日、「なんとしても追悼会出席」と毛沢東は会場に向かおうとするものの昏倒し、どうやら折れた体温計を呑み込んでしまったとも伝わるのだが。
周恩来の死が合図であったかのように、四人組は鄧小平追い落としを本格化させる。
10日には上海の一部工場から鄧小平批判の動きが始まった。28日には周恩来追悼関連行事で中断していた政治局における鄧小平批判会議が、人民大会堂湖南庁で引き続き行われる。一連の動きの仕掛け人は、どうやら王洪文だったようだ。
だが、どんなに肉体は衰えたとはいえ唯一絶対の独裁者である毛沢東としては、四人組の跳梁跋扈を見過ごすわけにはいかなかったに違いない。21日の「首相代理に華国鋒。鄧小平は外交担」との提案が、29日には中南海で開かれた政治局会議で承認されている。
激動前夜の混沌の渦中でも、既定の日程に従うかのように出版は坦々・粛々と続く。
『一部宣揚投降主義的反面教材 ――《水滸》選評 《中学課外閲読文選》専輯)』(上海人民出版社)では、『水滸伝』の第35、39、42、60、71、72、80、82、110、120回の原文を示して、宋江を戴く梁山泊のニセ英雄たちの反動振りを“告発”する。「反動地主家庭に生まれ、幼い頃から儒家の古典を学び、体中に孔孟の道の毒液が回った反動ヤロー」と宋江を非難するが、この文言がそのまま周恩来批判に通じていることは明らかだ。
《中学課外閲読文選》と銘打っているだけあって中学生レベルでも分かり易く解説してはいる。だがスーパーヒーローが群れ集って登場して「義」のために血湧き肉躍る大活劇を展開する義侠物語『水滸伝』を、じつは「投降主義の反面教材」だったなどと教育しようと努めても、広範な大衆を動かすことなどできはしなかった。水滸伝批判から浮かぶのは、思う通りに進まぬ権力掌握に焦燥感を募らせる四人組の悪足掻きでしかない。
相変わらず儒法関連の出版は、『先秦両漢法家経済思想』(《先秦両漢法家経済思想》編者組編 上海人民出版社)、『商君書新注』(山東大学《商君書》注釈組 山東人民出版社)をはじめとして、『劉邦』(項立嶺・羅義俊 人民出版社)、『諸葛亮』(吉林大学歴史系《諸葛亮》編写組 人民出版社)、『歴史知識読物 洪秀全』(花県新華公社大■大隊理論組・花県洪秀全記念館・広東師範中文系七二級二班工農兵学員 広東人民出版社/■=土偏に布)、『評法批儒文選 ――両種不同的文字観』(本社編 文字改革出版社)と続く。
どれをとっても、それまでの主張に大差はない。法家思想を讃える“金太郎飴式”であり、すでに読み飽きた新鮮味に欠ける内容であり、敢えて紹介するまでもないだろう。そこで些か毛色の変った、文字改革に関する儒法闘争を論じた論文を収める『評法批儒文選 ――両種不同的文字観』を読んでみたい。
たとえば「奪回“孔丘”覇占的“丘”字」は、歴代権力者や反動派が孔子を聖人に祭り上げたことから、「“孔丘”の2文字を至聖化し使用厳禁とし、数々の丘の異体字をデッチ上げた」たのだ。「(建国後)毛主席と共産党の指導下での文字改革に伴い漢字簡略化が進行中であり、丘の異体字を廃止することに我ら工農兵は拍手喝采するばかり。いまや丘以外に存在する多くの異体字を廃止すべき時期に立ち至った」と説く。漢字までが孔子の毒に犯されていたとは初知識だ・・・驚天動地・支離滅裂・終始一貫・無理無体。《QED》