【知道中国 2629回】 二四・一・仲六
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習295)
法家思想に基づく大変革を達成し、「戦国初期の貧しく立ち遅れた秦」を短期間のうちに富国強兵の大国に変貌させるに大功のあった商鞅(紀元前390~338年)の思想と政治的主張を纏めたとされる『商君書』を原文に沿って詳細に解説した『読《商君書》』にしても、前漢前期の「傑出した法家政治家であり、我が国で最も早い時期に反動勢力が使った“君側の奸を除く”の策略によって殺害された著名な人士」である晁錯の評伝とその著作を詳細に解説した『晁錯及其著作』にしても、いったい、どれほどの庶民が手に取って読解できただろうか。
おそらく大多数の国民からすればチンプンカンプンで、読んだところで理解はできなかった。正直なところ、読む気も起こらなかったに違いない。それでもなお出版する意味はあったのか。この2冊に目を通して痛感することは、“落とし所”を失ってしまった批林批孔運動の滑稽すぎるばかりの空転振りだ。
『少年歴史故事叢書 中国的古代文物』は北京原人、始皇帝による度量衡の統一、シルクロード、紙の由来、敦煌の石仏、印刷術の発明など「古代の階級闘争、生産闘争、科学と芸術活動など」を紹介し、少年に対し「歴史唯物主義と愛国主義教育」を施そうとする。
数多くの「古代文物」が紹介されているが、なかでも興味深いのが「西沙群島出土の青花瓷器」の章である。それは次のように書き出されている。
「我が国南方の麗しく豊穣な西沙群島から、最近になって古銭・銅鏡・瓷器・航海文書や当時の統治権力の碑文などが出土した。これら重要な歴史的意義を秘めた文物は我が国労働人民が古くから南海の島々に住みつき、長年に亘って営みを続けてきたことを物語っている。西沙群島は古来、我が国の神聖な領土なのである」
批林批孔闘争の時代、すでに少年たちの頭の中に「西沙群島は古来、我が国の神聖な領土」であることをシッカリと刻み込もうとしていた。それから半世紀ほどが過ぎた現在、中国は西沙諸島を含む南シナ海全域の領有を主張し、島々の要塞化を強行する。やはり三つ子の魂百までも、なのか。
『中国歴史上的宇宙理論』は、中国には古代から宇宙の運行を科学的に観測し、その仕組みを捉えようとする試みがなされてきた。だが「延々と続く我が国封建社会にあって、儒家思想は宇宙理論を含む科学理論発展を阻害し続けた」。その結果、「孔子ヤローが説く“聖人の訓”は古来、反動派が革命に反対し、科学革新に反対する精神的武器となってしまった」――こう説き起こす。
そして、近代まで様々な科学的宇宙論が展開されてきたが、それらは悉く“聖人の訓”に退けられてしまったことを、実例を挙げて詳説している。
近代になって、太平天国を打ち立てた洪秀全を嚆矢として、厳復、孫文などが西洋の科学思想に則った宇宙論を展開した。それらの幼稚で機械的で欠陥だらけの宇宙論には限界があったが、このような基礎のうえに、「マルクス・レーニン主義と中国革命の具体的実践を結びつけ、闘争の中から毛沢東思想が生まれ、〔中略〕毛主席の革命路線の指導の下で中国人民は極めて優れて社会を改造し、自然世界を改造し、プロレタリ階級の世界観と方法論によって宇宙問題を研究し、数多くの優れた成果を挙げた」。かくして「中国人民にとっての宇宙史の認識は、ここから新しい1頁が始まる」ことになるそうだ。
このような“批林批孔的歴史認識”に従って中国の歴史を捉え直すなら、毛沢東を境に「毛沢東前(=封建中国)」と「毛沢東後(=人民中国)」に截然と分かれる。前者を「旧中国」、後者を「新中国」と言い、「旧中国」では儒家(反動勢力)と法家(進歩勢力)が戦いを繰り返したが、儒家は連戦連勝で、法家は連戦連敗だったことになる。《QED》