【知道中国 2603回】 二三・一一・念五
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習269)
1974年12月分の出版部数を記しておくと、
『批判孔孟的反動文芸観』(上海人民出版社):5万部
『柳宗元詩文選注』(上海人民出版社):30万部
『三字経是騙人経』(上海人民出版社):10万部
出版部数だけに基づく素朴な感想だが、どうやら上海人民出版社も一時の勢いが失せつつあるように思えてくる。だが、だからといって批林批孔闘争の旗は降ろしそうにもなさそうだ。断固として振り続けようとする。
1975年と年が改まっても、共産党政権公式メディアの『人民日報』『紅旗』『解放軍報』は共に「新年献詞(新年の挨拶)」で「批林批孔還要抓緊」の表題を掲げ、批林批孔を全力で確実に推し進める必要性を訴えた。
病の篤い周恩来は、毛沢東に対する根回しを慎重に重ねながら鄧小平の復権を強力に後押しする。中央軍事委員会副主任兼総参謀長(1月5日)、党副主席(8~10日の中共第十次二中全会)、国務院副総理(13~18日の第4回全人代)に就任した鄧小平は、25日に総参謀部に幹部を集め「軍隊はムダを省き、スリム化されなければならない」と講話する。
年初からハルピンを拠点にした毛遠新の政治行動は活発化するが、毛沢東は江青忌避の動きを隠そうとしなくなった。
たとえば江青が毛沢東の側近を通じて「八千元の無心」を申し出るや、毛は周辺に「彼女のお気に入りは自分だけ。そのうちに誰とでも見境なく衝突するだろう。いまは誰もが彼女に遠慮しているが、いずれオレが死んだら、きっとなにやら厄介を起こすだろう」と洩したとか。とはいえ、これは江青失脚後に伝えられたタメにする小道消息(都市伝説)の類とも考えられる。
1975年1月で注目しておくべきは第4回全人代(1月13~18日)に病身を押して出席した周恩来が行った「政治報告」だろう。周恩来は「今世紀内に農業・工業・国防・科学技術の全面的現代化を実現させる」と説いた。その後の中国に大変革をもたらすことになる「四個現代化(4つの近代化)」は、一面では「周恩来の政治的遺言」とも呼ばれる。
「新年献詞」に応えるかのように『法家人物故事 Ⅰ』(本社編 上海人民出版社)、『教育史上的儒法闘争概況』(北京師範大学教育系・広東師範学院教育学教研室・河南南陽地区教育幹部学習班編 人民教育出版社)が出版されている。すでに発表された数多くの檄文紛いの論文の体裁を変えて集めただけのような内容であり、批林批孔闘争関連出版物のマンネリ化は否めず、一時の勢いを感ずることはできそうにない。
『中国哲学史講話』(尹・孫・方・張 人民出版社)は70年代前半に「農山村に出かけて労働から学ぶ知識青年、広範な労働者・農民・兵士、基層幹部のために」出版され、彼らを「毛沢東の革命サイボーグ」に改造するための扇動文献と位置づけておきたい「哲学社会科学基礎読物」シリーズの1冊である。
この本は「我らの偉大なる祖国は世界の他の国と同じように長く変化のない原始社会を経て、紀元前21世紀頃に樹立された夏王朝によって奴隷制社会に進んだ。以後、商、周の2つの時代を経て、政治、経済と文化などの方面で飛躍的な発展を遂げ、世界で最も先進的な文明を持つ旧い国となった」と説き起こし、奴隷制社会、奴隷制崩壊と封建形成期(春秋戦国時代)、封建社会(秦から明末清初)、旧民主主義革命(19世紀中葉から20世紀初頭まで)における哲学思想上の「路線闘争」を詳しく記している。
気の遠くなるような時間の中で営まれた中国哲学の流れを説くわけだから、さぞや複雑で精緻で高尚で劇的な議論が展開されているに違いないと期待したのだが。《QED》