【知道中国 2601回】                      二三・一一・廿

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習267)

モノはついで。そこで『三字経』の現在を考えてみることにした。

2005年に『共産党員先進性 三字歌』(胡沢君 陳均倫 南方日報出版)が出版されているが、まさに共産党版『三字経』そのもの。あれほどまでに猛烈・痛烈・激烈に批判していたにも拘わらず、イザとなったら素知らぬ顔で利用してしまえ、という魂胆だろう。新しい「民族としての中国人の偉大な点」とシッカリと記録しておきたい。

どうやら中国人の言語感覚として、3文字を連ねることが耳に調子よく響き覚え易く、忘れ難く確実に記憶される――これが中国語の持つ音と意味の巧みな組み合わせだろうか。

たとえば伝統的な『三字経』は「人之初 性本善」ではじまり「勤有功 戯無益 戒之哉 宜勉力」で終わる。漢字3文字を一句にして哲学、文学、歴史、地理、天文などを判り易く語り掛けながら、中華文明伝統美徳なるものを学ばせようとする。

 最初、意味は判らなくてもいいから、ともかくも大声で音読してみる。「人之初(レン・ジ・チュ) 性本善(シン・ベン・シャン)」と調子がいいから覚え易い。何回も何回も口にしているうちに、音が脳味噌の内側に深くシッカリと刻み込まれる。その頃になると「人の本質は生まれながらにして善なるものだ」という意味が判ってくる。かくて中華文明伝統美徳が体に染みついて離れなくなってしまう。じつに巧妙なカラクリだ。

 そこで『共産党員先進性 三字歌』に登場願うわけだが、書名がズバリと示しているように、「共産党員先進性」を教え込むことを狙う。紛うことなき共産党版『三字経』だ。「先進篇」「理想篇」「責任篇」「能力篇」「形象篇」「奮闘篇」の6つの部分から構成されていて、最後に全篇を唱えるようゴ丁寧にも楽譜付き。仕掛けは至れり尽くせりだ。

 共産党広東省委員会副書記劉玉浦は巻頭の序で、2005年4月から広東省で進められた共産党員先進性保持教育活動の中から生まれたこの本は、「思想・教育・知識・読物性を一体化したもので、党員の修養を高めるうえで極めて有益」であり、党員が拳々服膺することで「全省人民のゆとりを実現するために新たな貢献をなそう!」と呼びかける。

 なにはともあれ各篇の最初に掲げられた数句を挙げてみると、

 ■先鋒篇:共産党 永向前 葆先進 基業堅(共産党は歩みを止めず、偉大な先人鴻業の、基礎をキッチリ固めよう)

 ■理想篇:樹有根 屋有梁 立壮志 守信仰(樹には根があり屋根には梁が、壮大な志を打ち立て、理想を断固と守り抜く)

 ■責任篇:百姓事 大于天 執政党 任在肩(無告の民の生活は、天よりさらに大きくて、執政党(=共産党)の責任は、ズシリと肩に掛かるもの)

 ■能力篇:執好政 講規律 発展観 不偏移(政治(=まつりごと)は素晴しく、飽くまで規律は正しくて、明日を見据えたその視点、ドシリと揺らぐこともなし)

 ■形象篇:樹形象 聚人心 立威信 万年青(人の心をシッカと掴み、民の心を聚めます、共産党の威信が立てば、清新の気は永遠に)

         

■奮闘篇=思前賢 振衣襟 史為鑑 知衰興(先賢苦闘に思いを致し、常に言動正します、歴史を鑑に衰興(みち)を知る)

 かくして最後は、「民康楽 政清明 党帯領 国運興(人民豊かに健やかに、政治は飽くまで明るく清く、党が導くことにより、国運隆盛万々歳)」で結ばれるのであった。

 当然ではあるが、共産党独裁が中国社会や中国人、さらに国際社会に与える負の影響など、共産党にとっての“不都合な真実”に言及するわけはない。なぜなら共産党の執政は飽くまでも、断々固として、永遠に正確無比で絶対無謬であるから・・・だ。《QED》