【知道中国 2600回】                      二三・一一・仲八

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習266)

 先にタネ明かしをしてしまうようだが、1994年に中国人民出版社から出版された『絵画三字経』の「前言」は、次のように記されている。

――「『三字経』は、よく考えられた3文字を使って我が国の伝統美徳を概括し、読者に世界を認識させるものである。極めて判り易く、我が国古代ではよく知られ、少年児童に啓蒙教育を施す読み物となった」。江沢民主席(当時)が「伝統美徳を発揮しなければならない」と再三にわたって強調し、「李嵐青副首相も、この問題に専門的に言及した。注目すべきは1990年に国連ユネスコが『三字経』を世界児童教育叢書に加えたことであり、これは単に中国のみならず、全人類の誇りでもある」――

 まさに1990年には「単に中国のみならず、全人類の誇りでもある」と誉め讃えられた『三字経』ではあったが、それから16年前に出版された『三字経是騙人経』では、なんと『三字経』は「人を騙す経典」と罵詈雑言を投げつけられているのだ。

1974年と90年。16年の時間差でで『三字経』の価値は一落千丈ならぬ一躍千丈。ホップ・ステップで大ジャンプ。なんともワケが判らない。絶対矛盾の自己満足と言うしかないが、「中国の特色を持つ道徳律(ヘリクツ)」と思えば怒る気も起こしようがない。

 『三字経是騙人経』の「編者的話」では、「上海第五鋼鉄廠の労働者たちが批林批孔運動を進める過程で『論語』を批判すると同時に、宋代の孔孟の学徒がでっち上げた『三字経』とソイツらが編み出した反動的なことわざをマルクス・レーニン主義の観点から分析し、批林批判孔運動をさらに進展・深化させようと試みた」と強調している。つまり、この本は労働者が進めた批林批孔運動の輝かしい成果ということだろう。

 そこでモノは試し。労働者たちの批判論文をザッと、飽くまでもザッと読んでみたい。

 ――『三字経』は冒頭に「人之初 性本善」の6文字を掲げ性善説を教える。だが『三字経是騙人経』では、それはウソッパチの妄論にすぎず、「血を見ないで人をジリジリと切り刻む刃のようなものだ」。「人の性質は天から授かるものでも、母親の体内から持って生まれ出てくるものでもない。社会における実践活動、わけても階級闘争の過程で形成され、奮闘努力の結果として身に備わる。『三字経』は人の性質は先天的、超階級的だと囃し立てるが、それこそ正真正銘の搾取階級の考えだ」と糾弾する。

 『三字経』には「孟母三遷」の教えがあり、学問を通じて人格を陶冶するには環境が大事であることを説くが、孟母三遷などという考えは「歴代の反動派が自分にとって孝行な息子や賢い孫を育て反革命を継承させ、搾取階級の利益を守るため」、猛毒を秘めた孔孟の教えを必死になって次の世代に受け継がせようという悪巧みにすぎないと切って捨てる。

そこから転じて林彪が孔孟の教えを信奉するのは、「自分の手足となってプロレタリア階級独裁を転覆するように青年世代を育て上げようと妄動」する一方で、「知識青年を農村で鍛えよ」という毛沢東の考えに反対するためだ。

だからこそ我われ労働者は「次の世代をプロレタリア階級革命事業の後継者として育て上げ、労働者と農民とがしっかりと結びついた光輝く大道を若者が進むことを断固として支持」しなければならないのである。

 この他、『三字経』が力説する三綱(君臣・父子・夫婦の務)五常(仁・義・礼・智・信)などの「徳目」は、「封建秩序を維持するため」に考えだされた大インチキだ。

――以上が『三字経是騙人経』の主張の大筋である。

1974年にはクソミソに批判さした『三字経』を、1990年には「中国のみならず、全人類の誇りでもある」と胸を張って自慢する。手前勝手で超自己チューのデタラメさ。巧言粉飾・厚顔無恥。いや、やはり「中国の特色を持った自画自賛」に違いない。《QED》