【知道中国 2599回】                      二三・一一・仲六

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習265)

『哲学社会科学基礎読物 世界近代史講話』(北京大学歴史系七○系工農兵学員《世界近代史講話》編写組 人民出版社)と『青年自学叢書 社会発展史』(上海師範大学政教系編写組 上海人民出版社)が出版されている。

「哲学社会科学基礎読物」とは、「農山村に赴いた都市の知識青年と広範な工農兵、基層幹部のために編集され」、「飽くまでもマルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想に基づき、分かり易い表現を使い哲学、政治経済、科学的社会主義、中国歴史、世界歴史、哲学、論理学を明らかにし、階級闘争と路線闘争における覚悟を高めようとする」(「出版説明」)ことを目的に出版された。「青年自学叢書」も同じ目的で出版されているが、専ら「農山村に赴いた都市の知識青年」向けに編集されているから、当然のように表現は小難しい。だが、共にウンザリするように生硬なリクツで貫かれている点では大同小異である。

ここで頭の隅に留めておきたいのが、文革期とは、この両書が語る歴史観・思想を知識青年の頭の中に叩き込もうとした時代だった、ということ。こう考えるなら、習近平の思考回路の一端がある程度は想像できるのではないか。やはり三つ子の魂百までも、だろう。

『哲学社会科学基礎読物 世界近代史講話』に拠れば、「世界近代史」は人類社会が資本主義段階に入るキッカケであった17世紀イギリスのブルジョワ革命から始まり、帝国主義が戦争と同義語であることを満天下に明らかにした第一次世界大戦で終わっている。この中で明治維新は「日本が資本主義の道を歩き出した」と、パリコミューンは「プロレタリア階級独裁に向けた偉大なる実験」と捉えられている。

この本の末尾は「2度の世界大戦の歴史は戦争が革命を引き起こし、革命が戦争を止めさせることを教えている。だから帝国主義と社会帝国主義がなんとしてでも新しい世界大戦を引き起こそう蠢き回るなら、世界規模でさらに大規模な革命が起こり、彼らを徹底して滅ぼすことになる」で結ばれている。

さて、こんなリクツが中国のトップとなった現在の習近平の頭の中を過ることはあるのだろうか。

『青年自学叢書 社会発展史』は人類の歴史は原始社会から始まり、奴隷社会、封建社会、資本主義社会、社会主義社会を経て共産主義社会へと進化する過程として捉える。「農山村に赴いた都市の知識青年」向けだから、とうぜん全403頁の巨冊の隅々にまで小難しいリクツが記され、最後の最後が強烈な檄文で結ばれている。

「革命青年よ、毛主席の諄々たる教えを牢固として心に刻み、共産主義への長い旅の過程で決心を固め、犠牲を恐れず、万難を排し、勝利を勝ち取れ! 強風暴雨・濁流激波を恐れることなく、戦闘の旗幟を確固と掲げ、共産主義を目指せ!/共産主義は必ずや実現するぞ!/共産主義を断固として実現させるぞ!」

はたして若き日の習近平も、こんな檄文に煽られまくったのだろうか。純情無垢な青年の脳ミソに深く過激に植え付けられたに違いない共産主義への“熱い思い”は、いまも習近平の心の奥底で消えることなく燃え続けていると考えたら、これからの世界はトンデモナイ悲喜劇に見舞われることになることを覚悟しておく必要があるだろう。

 『三字経』は『百家姓』や『千字文』と同じように、一句が漢字3文字で書かれた初学者用の伝統的な学習書であり、分かり易く音の調子が似通った漢字を組み合わせて書かれているだけに、儒教の徳目や中国史の基本常識などを音で覚えさせる働きを持っている。この『三字経』は人民を騙す経典だ、と激しく糾弾するのが『三字経是騙人経』(上海第五鋼鉄廠工人写作組 上海人民出版社)である。これも批林批孔運動の一環と捉えて間違いないだろうが、それにしても執拗で、じつにウンザリするばかりにシツコイ。《QED》