【知道中国 2596回】                      二三・一一・初五

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習262)

1974年11月には『資本主義貨幣危機』(尹士楚・貝世京 人民出版社)も出版された。

以下、やや杜撰であることは承知の上で、資本主義貨幣制度に関する文革期の“公式見解”を概観しておきたい。

――「通貨危機は日ごとに深刻さを増し、現在の資本主義国家が最も頭を悩ませる問題の一つとなり、猛烈に頻繁に資本主義各国を襲っている」。「通貨危機の暴風に襲われるごとに、資本主義諸国の為替相場は劇的に変動し、金の価格はうなぎ登りに上昇する。甚だしい場合には外為市場は閉鎖され、国際金融市場は大混乱に陥ってしまう」。

かくして「資本主義における政治、経済の危機は深刻の度を加え、国家独占資本主義が深化するに従って帝国主義国家はいよいよ財政出動に頼った経済の建て直しを図り、経済危機の脅威からの脱却を画策し、生き残りの道を探る。だが国家資本主義が目論む様々な方策は資本家にとっての理想国家の建設を目指すのみで、広範な労働人民にとっては過酷な軍事キャンプへの強制収容を意味することとなる」。

資本主義の本質が改められることはなく、結果として財政・貨幣・金融危機などを激化させてしまうから、「そこで独占資本階級は国家の持つ様々なシステムを利用し」、「政府の予算を増大させると共に金融市場をコントロールすることを通じ」て、危機の先延ばしを狙うのである。

だが、そうした措置は結果として「膨大な財政赤字を生み出し、通貨を著しく膨張さてしまう。また銀行による金利を限りなく変動させ、国際収支の不安定化を招くなどの背景の下で、資本主義の貨幣危機は日々深刻化することになる。旧い病気が癒えないうちに新しい病気になるように、様々な危機が止むことなく連鎖的に起こってしまう」。

「貨幣危機の暴風に一再ならず襲われている現下の情況においては、第二次大戦後に打ち立てられた米ドルを機軸とする資本主義における世界の貨幣体系は、すでに瓦解している。このような状況は、資本主義における貨幣危機が新たなる危機段階に突入したことを意味することになる。今後の推移、つまり帝国主義国家におけるこの問題に起因する矛盾と闘争が、国際政治経済の各方面に共に多大な影響を与えることになる」。

だから、「この問題に対し我々は関心を持ち研究を進め、国際情勢全体を総体的に把握し、毛主席の革命外交路線に服務することを徹底させなければならない」。「資本主義各国の通貨が膨張するにしたがって各国紙幣の信用はいよいよ低下し、金争奪も必然的に激しさを増し、さらなる混乱が巻き起こる。同時に米ドルの持つ覇権的地位は下落するが、いかなる資本主義国家の貨幣であれ、米ドルに代わることはありえない」と結論づけた。

――以上が、文革期の中国における資本主義経済体制における貨幣危機のメカニズムに対する公式見解だろう。言い換えるなら、資本主義は必然的に崩壊し、毛沢東思想に拠って新しい世界を打ち立てれば人類は幸福になる、ということだ。

だが複雑微妙で千変万化する貨幣が必然的に引き起こす問題は、「百戦百勝」を誇る毛沢東思想であったとしても一刀両断の下に解決できるとも思えない。振り返れば、じつは深刻な危機に襲われたのは資本主義国家もさることながら、「毛主席の革命的外交路線」であり、絶対真理・絶対無謬を誇っていた毛沢東思想ではなかったか。

そこで鄧小平に率いられた共産党は「毛主席の革命外交路線」をボロ雑巾のように捨て去り、毛沢東思想にスッポリと覆いを被せる一方で、「中国の特色を持つ社会主義」やら「社会主義市場経済」などと“粉飾”を施しながら、自らの強い意思で世界の資本主義市場経済体制に飛び込んでみせた。これが鄧小平流の対外開放ではなかったか。

中国の特色を持つ市場経済――市場レーニン主義――が誕生した瞬間である。《QED》