【知道中国 2594回】                      二三・一○・卅

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習260)

1974年11月には、毛沢東の重要論文の1つとされる「関于正確処理人民内部矛盾的問題」を解説した『《関于正確処理人民内部矛盾的問題》浅説』(《〈関于正確処理人民内部矛盾的問題〉浅説》編写組 上海人民出版社)が出版されている。

 毛沢東は、1957年2月の最高国務院会議で社会主義国家が抱える矛盾を人民内部の矛盾として解決すべきだと語り、これを「関於正確処理人民内部矛盾問題(人民内部の矛盾を正しく処理する問題について)」として纏め、『人民日報』(6月14日)に発表した。

この本は、「毛主席のこの著作は、我が国社会主義革命が将来にわたって前進可能か否かの極めて緊張した時期に発表された」とする。

「関於正確処理人民内部矛盾問題」を発表する1年前の1956年、毛沢東の定めた方針に従って「農業、手工業と資本主義工商業に対する社会主義改造を基本的に完成させ、社会主義所有制は我が国における唯一の経済基盤となった」とのことだ。

ところが当時、毛沢東路線に反対する劉少奇を筆頭とした「党内に潜伏していた叛徒」たちが「『階級闘争消滅論』を声高に喚き散らし、『社会主義と資本主義の間のどっちが勝利したという問題は、すでに解決した』『階級闘争は基本的に終わった』などとほざきまくり」、「一心不乱に生産に励めばいいんだ」などとガナリ立て、「修正主義の誤った考えを推し立てて資本主義復活への陰謀を卑劣にも画策していた」――

長ったらしい名前を持つこの本は、社会主義社会となったからといって安心は禁物だ。常に警戒を忘れずに永続革命に邁進しない限り、社会主義は容易に修正主義に後退し、やがて資本主義の復活を許してしまうというリクツで貫かれている。

1966年の文革開始から8年。毛沢東の死と四人組逮捕の2年前の出版だが、1957年に毛沢東が提起した永続革命論を敢えて持ち出さざるをえなかったところに、文革路線の緩み、文革に対する国民の厭戦気分を引き締めようという意図が透けて見えてくる。

この本の特徴は小難しい空理空論を羅列するのではなく、修正主義に堕落し資本主義一歩手前とまで断罪する当時のソ連社会の姿を伝えている点にある。たとえば、

■「ソ連社会の危機は日増しに増大しているが、それは腐れきっているソ連修正社会帝国主義が進むべき必然的な道である。今日のソ連では、汚職・窃盗、投機・空売り、泥棒・淫売、凶悪殺人、薬物中毒にアルコール依存症など日常茶飯に見られる。妖風毒霧がソ連全土を覆い尽くし、社会全体が腐敗現象で包まれている」

■「高官によるあからさまな賄賂要求、企業資産の掠取は特別なことではなくなった」

■「多くの企業で『国有財産の身勝手な浪費と私物化という現象』が認められる」

■「長年にわたって莫大な公金を私物化したにもかかわらず、アルメニア・ガス建設経営陣の一員は法律に追及されることなく、法律の圏外でのうのうと暮らし、別の地方の企業に配転され、厚顔にも経理を担当している」

■「(日本の産経新聞出版書籍の記述を引用し)ソ連修正主義社会の危機は、またスリや売春婦の横行にも現われている。売春婦は社会の腐敗の膿である。付けマツゲ、アイシャドー、厚化粧の売春婦は盛り場の至る所に出没している」

■「アル中と離婚は特に珍しいことではない。アル中は社会制度の問題を忘れる一種の便法にすぎない。ソ連修正主義の離婚率は既にアメリカを超えた」

■「現在のソ連は既にガタガタで治癒し難い状態であり、歴史博物館入り目前だ」

“仇敵”のはずの産経新聞を使ってまでソ連を批判する点が笑えるが、この本が執拗に糾弾・嘲笑するソ連社会の惨状が“金満中国”に重なって見える点も興味深い。だから習近平は中国全土を覆う「妖風毒霧」を払拭すべく躍起になっているに違いない。《QED》