【知道中国 2590回】 二三・一○・念二
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習256)
これまで文革期に出版された中国語の文法、修辞法、発音などを詳細に解説した語学関連の書籍を紹介してきたが、1974年10月に出版されている『漢字的整理和簡化』(本社編 文字改革出版社)と『語文知識叢書 語音常識』(田希誠 山西人民出版社)を、その系列に加えておきたい。
『漢字的整理和簡化』では「毛主席を首(トップ)とする党中央の指導の下、全党・全軍・全国人民は劉少奇と林彪の2つのブルジョワ階級司令部を粉砕し、彼らが推し進めた修正主義路線を批判し、同時に彼らが口を極めて罵った文字改革工作に対する種々の間違いを批判したことで、いまや文字改革工作は正しい道を活発に歩み始めた」(「出版説明」)とし、1973年と74年に『人民日報』などに発表された関連論文を集録しているが、どう読んでもコジツケとしか思えない。
一方の『語文知識叢書 語音常識』では、彼らが「普通話」と位置づける言葉(「漢語」)における正しい発音の仕方を徹底して追求している。一種の語学専門書でもあり、文革イデオロギーは微塵も感じられない。
だが、劈頭に「一切の幹部は普通話を話さなければならない」「文字は改革され、世界の文字は同じ発音表記に向かわねばならない」(『毛主席語録』)を掲げているところから考えるなら、語学専門書を装いながら、『語文知識叢書 語音常識』は習近平政権による少数民族の言語撲滅と漢語教育強要策に繋がる極めてカクメイテキな内容だとも言える。はたして飛躍のし過ぎだろうか。
奇妙に思えるのが『康徳星雲説的哲学意義』(鄭文光 人民出版社)である。「カント以前の人類の宇宙認識」から説き起こし、「天体の進化に関する初期の理論」「星雲学説の哲学的意義」「天体の進化に関する現代の理論的進展」を経て「現代における宇宙認識に関する2つの路線の闘争」までが記されている。
だが極めて素直に考えて、なぜ、この時期にカント(康徳)の「星雲学説」の「哲学意義」が論じられなければならないのか。
たしかにカントは人類で初めて「燃えさかる星雲が凝縮することで現在の天体が生成された」と説いたが、このカントの宇宙認識論と文革の間には、いったい、どのような関連があるのか。カントの宇宙観を知ることによって文革の“神髄”に到達することができるとでも言うのか。文革の時代に引っ張り出され、カントにとってもナンともカンとも迷惑千万な話だとは思うが、批林批孔運動の正当性を証明・補強する手段としてカントまでをも持ち出すところに、中国人の発想の不可思議さを感じざるをえない。
じつに厄介な作業ではあるが、これも行きがけの駄賃とガマンして『康徳星雲説的哲学意義』の主張を極めて大雑把に纏めてみると、
――人類の自然界に対する認識の歴史は、哲学史の全体と同じように唯物論と唯心論、弁証法と形而上学の闘争の歴史である。そこで人類の自然観、あるいは自然認識は「時代的、階級的、政治路線の烙印をクッキリと押されることになる」
中国の歴史をみると、たとえば「孔子のクソッタレ」の末流となる漢代の董仲舒は「封建統治階級の利益に基づいて「一種の唯心主義的“天命論”の哲学思想を振りまいた」。このように、「階級社会においては人類の自然に対する認識は、各時代の政治闘争と思想闘争と密接不可分の関係にあることを知るべきである」。だから董仲舒、さらに遡れば孔子に淵源を求めることのできる「一種の唯心主義的“天命論”」は壮大なインチキなのだ。
生産闘争・階級闘争・科学実験を通じて自然界に対する正確で全面的な認識を獲得することが、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想を学ぶ重要な課題である――《QED》