【知道中国 2587回】                      二三・一○・仲六

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習253)

『聴老工人講童年』(本社編 上海人民出版社)もまた『和少年朋友談談理想』と同じような思想教育のための副読本である。年老いた労働者が新しい中国を担う子供たちに向かって、幼いながらも大人と同じように苛酷な労働を強いられ、旧中国で自分たちが嘗めざるを得なかった惨苦の数々を語り掛けるスタイルの7編の懐旧談が収められている。

どれもが苦渋に満ち溢れ、聞くも涙、語るも涙であり、行間からは血の涙が流れ出し、まるで天をも焼き焦がさんばかりの復仇の怒りが迸ってくるような見事な語り口である。

「旧社会における一切の惨劇は労働者や児童労働に対する資本家の残虐な搾取のゆえであり、その歴史は彼ら虐げられた者たちの反抗・闘争によって貫かれている。天地をひっくり返す巨大な変化は、我らの祖国における社会主義建設の溌剌とした発展の反映である」からこそ、『聴老工人講童年』は「新旧社会の対比を通して、さらに新社会を熱愛し」、「断固として毛主席の革命路線に沿って前進し、より美しく豊かな明日を迎えなければならない!」との結論に立ち至ることになる。

このような悲惨・忍従・反抗の三題噺を聞かされ、教え育てられ、党の部品となりネジとなって文革の混乱を生き抜き、開放時代を乗り切った集団が、長期に亘る熾烈な権力闘争と行政経験を経た末に現習近平一強体制の中核を担っていると考えたなら、現在の習近平政権が内外に示す強硬姿勢の拠って来る由縁がハッキリと浮かんでくるに違いない。

いったい、いつまで「旧社会=悪、新社会=善」との善悪二元論に貫かれた「思想教育」が続くのか。「三つ子の魂百まで」との古訓に従うなら、習近平政権の間は当然、共産党独裁が存続する限り、共産党的正義が振り回されることを覚悟しておくべきだろう。

体操器具を使うわけでも、特別な技術を学ぶわけでもなく、自分の手足を自在に動かし、単純な刺激を加えることで健康を維持することを目的に、豊富なイラストで分かり易く解説するマッサージ解説書『保健按摩』(谷岱峰編著 人民体育出版社)が再版されている。

初版は大躍進政策末期の1962年で、ウンザリするように硬直した公式的文革イデオロギーを振り回していないだけに、逆に『保健按摩』には新鮮さが感じられる。

それにしても、である。「個々に示した鍛錬法を絶えず実行し、より的確に健康を増進させ、社会主義革命と社会主義建設に邁進してもらいたい」との“但し書き”がされている辺りに当時の社会の風潮が感じられるから、じつにゴ愛嬌でもある。

それにしても累計ではあるが200万部近く出版されている点に注目したい。やはり民衆はイデオロギーより健康を求めていた、ということだろうか。

1974年9月の出版部数を記しておく。なお部数が記されていないものについては省いておいた。

『増強党的団結』(浦江江編写 上海人民出版社)=55万部

『軍事基本知識』(《軍事基本知識》編写組 上海人民出版社)=50万部

『全面規画 加強領導』(上海人民出版社)=30万部

『人民公社在躍進』(上海人民出版社)=27万部

『商鞅的故事』(譚一寰 上海人民出版社)=50万部

『太平軍在河南』(王天奨 河南人民出版社)=35万部

『永不休戦』(魏格銘 上海人民出版社)=30万武

『一代新医』(上海人民出版社)=3.5万武

『和少年朋友談談理想』(焦平 上海人民出版社)=50万部

『聴老工人講童年』(上海人民出版社編 上海人民出版社)=10万部

『保健按摩』(谷岱峰編著 人民体育出版社)=190.4万武      《QED》