【知道中国 2579回】                      二三・九・念一

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習245)

 

この辺で台湾の古本屋での思い出話を切り上げて、本題に戻りたい。

さて、礼を失していることとは十分に承知しているが、こうも“キンタロー飴”式の論旨がミエミエの論文(アジ文)が満載された本を目の前にしたら、やはり人情の常として些か、いや非常に食傷気味になるのはやむを得まい。それというのも、表紙を開かなくても内容が想像できてしまう。新発見がないから読む意欲が湧かない、無意味で時間のムダ。

一般に「ウソも100回言い続けるとホントーになる」とされるが、批林批孔闘争や儒法論争に関する一連の書籍を読み返す限り、100回目に差し掛かった辺りで雲行きが怪しくなる。ウソから転じたホントーでも、さてホントーだろうかと改めて首を捻りはじめ、やがて誰も見向きもしなくなるはずだ。『論語』の教える「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とは、こういった“現象”を指すに違いない。

そこで8月は批林批孔や儒法論争は避けて、『上海?点制法』のみを読みたい。権力を巡る熾烈な政治闘争の真っ只中に在りながら、それとは全く無関係の甘味スナックのレシピ本を、それも大量出版する振る舞いに中国人の思考回路のクセを痛感するからだ。この種の“乱七八糟(ムゲンソク)”が、じつは中国庶民の振る舞いの真骨頂と思うのだ・・・が。

『上海?点制法』は、文革開始2年前の1964年に『上海各式?点制法』の書名で出版されている。1974年8月になって書名を『上海?点制法』に改め、第4版として総計で236,200部が出版された。

巻頭の「再版説明」では、中国には「独特の民族的風格を備えた食品があり、我が国各民族、各地方の労働人民の需要に応えるだけではなく、国際市場で迎えられている食品もある」とした後、

「毛主席のプロレタリア階級革命路線の導きの下、我らの偉大なる社会主義祖国は喜びの中、日に日に向上を続ける。特にプロレタリア階級文化大革命以来、社会主義の革命と建設の事業は目覚ましい発展を遂げ、市場は繁栄し、物価は安定し、人民の生活は絶え間なく繁栄を続ける。甘味スナック作りに携わる広範な労働者の努力によって品質は高まり、民族の特色が発揚され、日々の創意工夫の中から新製品が創り出され、社会主義市場をより豊かに発展させる」とし、そこで「『経済を発展させ、供給を保障する』(毛沢東)との総方針を貫徹させ、各生産単位の需要と貿易関連業務に従事する関係者の参考に供するため」に、『上海?点制法』の再版に踏み切ったと説く。

本文は「1.餅類(月餅など)」、「2.?類(蒸しケーキ)」、「3.酥類(焼き菓子)」、「油炸品類(揚げ菓子)」、「5、其他製品(飴など)」に分かれ、全部で130種類のスナックの製法が詳細に解説されている。

半世紀を超える中国食文化との付き合いのなかで香港、マカオ、台湾、中国、東南アジア各地の漢族社会で口にしたスナックを思い出しながら頁を繰っていくと、松餅、潮州餅、潮州猪油芝葱餅、水晶軟餅、火腿酥餅、酒皮餅、白綾餅、桂花糖年?、鮮?油栗子蛋?、核桃麻?、福建年?、猪油?、冬瓜?、重陽?、葱油桃酥、豆沙巻、黒麻酥、潮州猪油蛋黄酥、蜜三刀、麻花、?油薄片、潮州猪油花生糖、糯米団、芝麻糊など馴染みの品々が登場し、改めて「独特の民族的風格を備えた食品」の多さと、食べるものへの飽くなき執着心と徹底した創意工夫ぶりに驚かされる。

日本人の平均的感覚からすれば国家非常時、ことに文革のような超弩級の国家混乱期に甘味スナックのレシピ本の出版など考えつかないだろう。だいいち、そんな余裕があろうはずもない。だが彼らは「毛主席のプロレタリア階級革命路線の導きの下」を掲げて大量に出版してしまう。どうやら胃袋の前には“魂の革命”もカタナシだったようだ。《QED》