【知道中国 2572回】 二三・八・卅一
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習238)
次の『富饒的海洋』は1972年6月に初版が出版された後、73年6月と74年6月と版を重ね、総計で40万冊出版されている。
表紙には海底油田掘削プラットフォームが2基、夕日を浴びて作業する姿が描かれている。開巻劈頭には「我が中国は世界最大の国家の1つである。〔中略〕豊富な鉱産資源を貯蔵し、極めて多くの河川湖沼を擁し、水運と灌漑の利を与えてくれる。非常に長い海岸線は交通の便と海外各民族との交流の便をもたらす」を掲げた後、「再版前言」で次のように説く。
「海洋の政治、軍事、経済上の重要性はいよいよ増し、海洋における戦いもいよいよ熾烈を極める。戦いの焦点は侵略対反侵略、奪権対反奪権、覇権対反覇権の様相を呈している。長期に亘り帝国主義は秘かに我が豊穣の海域を窺い、絶えず我が国領海を侵犯している。海洋の認識・開発・防衛は海洋を社会主義の祖国により役立たせることを意味するばかりか、世界革命人民のためになすべき貢献であり、一つの重大な戦闘任務となっている」
海洋の姿、海水化学資源、海底鉱産資源、海水の動力資源、海洋生物資源の各項目に亘って過不足なく分かり易い解説が続くが、「海洋環境がどのように複雑であろうが、利用できるものは悉く改造すべきだ」と。ここに見える「改造」とは使い尽くせを意味していると考えて間違いないはずだ。共産党政権にとって、自然は使い尽くすべきものなのだ。
加えて「海洋は侵略対反侵略、奪権対反奪権、覇権対反覇権の重要な戦場である。海洋における闘争は一瞬も止むことはない。我が国人民は毛主席の『警戒を高め、祖国を防衛せよ』との偉大なる教えをシッカリと心に留め、世界各国人民と道を同じくし、断固として超大国による海洋分捕り、世界の分割に反対する。英雄的な中国人民は祖国の万里の海上に鋼鉄の長城を築き、波濤逆巻く大海を侵略者を埋葬する墓場としてやる」と息巻く。
これを言い換えるなら、自らが主張する領海の内側における海洋資源は一切が自分たち中国のものであり、であればこそ「改造」――煮て食おうが焼いて食おうが――は自分たちの当然の権利である。そこを守るためには「鋼鉄の長城を築」く。言い換えるなら、現在の中国の海洋戦略は、文革の時代から一貫していたと見なすことができるはず。
とするなら、中国が経済発展すれば多様な価値観の社会が出現し、共産党の独裁はくずれるなどとノー天気に構えていた欧米や日本の“お人好し度”を今さらに恨んでも始まりそうにないと思えるのだが。
やはり自国の利益に大きく拘わる事案になれば、中国はイデオロギーを捨て、形振り構わずに自国本意に動く。であればこそ中国が“世界”とか“人類共通”とかを掲げた対外姿勢を見せ始めたら、やはり眉にシッカリとツバを付けて立ち向かわなければならない。
建国、いや極論するなら共産党は誕生以来、戦いの中で子供を子供としてではなく、《小さな大人》と見なして使ってきた。その象徴が共産党軍の八路軍と共に動いた「小八路軍」だろう。彼らは大人の軍隊と共に行軍し、疑うことを知らない柔らかな脳髄に意図的に刻まれた敵を求めて勇猛果敢に戦ったのである。
その伝統を引き継いだのが文革に際し、青年世代の紅衛兵の下に生まれた幼少年世代の紅少兵である。『我們都是小闖将』は、彼らのための軍歌集と言っていいだろう。全部で51の詩編が収められているが、試みに1つ、2つを訳してみたい。
「偉大なる領袖が号召(ごうれい)を発せられた」=偉大なる領袖が号召を発せられ、批林批孔の波はいやが上にも高まる。工農兵は戦いの意気を高め、大批判の炎は天をも焦がす。紅小兵は一斉に戦いに馳せ参じ、林彪と孔丘(こうし)に的確無比に照準を合わせる。燃える真っ赤な心を党に捧げ、革命の志気は永遠に豪(はげ)しい」・・・そうだ。《QED》