【知道中国 2569回】                      二三・八・念五

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習235)

 

次の『談談増産節約』(上海人民出版社)は、上海絨毯三廠工人学習政治経済学小組と復旦大学経済系財貿教研組による共同執筆となっている。出版当時は四人組の絶頂期であり、加えて執筆陣が四人組の拠点であった上海の有力労働組織と理論研究教育担当部門――これだけ“役者”が揃えば、表紙を開くまでもなく内容は判ってしまいそうだ。

とはいうものの、やはり目を通しておくのが礼儀というものだろうと、読み進んでみた。率直な感想は、社会主義経済の壮大な蜃気楼を見せつけられた思いである。

いまや死語と化した「臍がお茶を沸かす」という表現がピッタリの荒唐無稽なヘリクツが、生真面目千万な口調で縦横無尽に語られている。論旨が過激になればなるほどに、クスクス、ゲラゲラ、ニヤニヤとなる。そこで試みに現在の習近平一強体制下の企業状況と重ね合わせて考えるのも一興だろう。

 先ず「中華人民共和国成立以来、我が偉大なる祖国を現代工業、現代農業、現代科学技術と現代的国防機能が備わった社会主義強国に鍛造するために、全国の労働者は自らを主人公と自覚した態度を以って、党の呼び掛けに積極的に呼応し、増産節約運動を広範に展開してきた」と、建国以来の経済活動の柱に「増産節約運動」を置き、全体の歩みを前向きに総括している。まさに自らを疑うことを知らないから、やはり限りなく危なっかしい。

さらに、建国後の毛沢東路線の精華として文革を高く評価し、「毛沢東の革命路線の導きに沿って劉少奇、林彪の修正主義路線を批判し、広範な労働大衆は社会主義の積極性をより一歩高め、奮闘力戦・倹約建国の思想をより深く体得し、増産節約運動はより広範に、より深化をみせ、湧き上がるように発展し、社会主義革命が推進され生々化育されるなかで、新しい生産建設の高波がまさに怒濤のように押し寄せ、高まっているのである」

こういう美辞麗句のみ重ねながら喫緊の問題を糊塗し、深刻な現実を一切隠蔽してしまおうとする文体を社会主義的駢儷体、あるいは毛沢東路線拍馬屁(ヨイショ)文体とでも呼んでおきたいところだ。

かくもバカバカしい文章は、俗にいう「ウソ八百」なる表現に倣うなら、「ウソ八兆」「ウソ八京」、いや「ウソ∞(無限大)」と表記しておくべきだろう。

 たとえば大躍進である。この運動に「全国の労働者は自らを主人公と自覚した態度を以って」立ち向かったなどと眉にツバ付けて読むしかなさそうな表現だが、毛沢東が絶対権力を掌握していた「党の呼び掛けに積極的に呼応し、増産・節約運動を広範に展開し」た結果、「現代工業、現代農業、現代科学技術と現代国防が備わった社会主義強国」は、どう考えてみても夢のまた夢でしかなかったはず。その証拠が、“この世の地獄”と化した「我が偉大なる祖国」に築かれた4000万人前後の膨大な餓死者の山ではなかったか。

 この本は、「要するに党の指導を強化し〔中略〕、思想政治教育を強め、反浪費闘争、勤倹建国・奮闘努力思想の確立、全面的節約と民衆の観点を絶え間なく展開しなければならない。このようしてこそ、増産節約という社会主義の方向が堅持可能になり、より快くより無駄のない社会主義建設が可能となる。我が国を現代工業、現代農業、現代科学技術と現代的国防機能を備えた社会主義強国として建設することこそが、世界革命にとって計り知れない貢献となるのだ」と結論づける。

 以上を要約するなら、社会主義社会での増産活動の柱は節約だ。増産と倹約こそが社会主義への道を切り開く。労働者こそが節約増産の主力部隊だ。困苦勉励・奮闘努力こそがプロレタリア階級の革命的本質だ。革命の全情況を胸に抱き、節約増産に励もう――だろう。

いま海外メディアは中国経済の“雪隠詰め状況”を報じる。だが、あるいは「プロレタリア階級の革命的本質」に立ち還るなら、この苦境もナンノソノ・・・まさか。《QED》