【知道中国 2555回】 二三・八・念六
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習221)
次は『禍水東引話当年』(上海人民出版社)と奇妙な書名の歴史書である。「禍水東引」とは自分に降りかかった禍を策を弄して他に転じさせるとの四字成語だが、この本ではソ連修正主義社会帝国主義を当時の世界における「禍水」と見なし、「ソ連修正主義叛徒集団は党と国家の領導権を簒奪し、社会主義ソ連を社会帝国主義国家に変質させてしまった」と糾弾する。
――社会帝国主義のソ連は急激に軍事力を増強させ、アメリカ帝国主義と共に世界を二分しようと企んでいるが、彼らの狙いは誰もが欲しがる中国という「肥肉」だ。だが、この肉は固くて噛み砕けない。ソ連修正主義は世界の至る所で軍事力を背景に、まさに弱肉強食式の拡張政策を強行する。西側国家はソ連修正主義を焚きつけて、「禍水」を中国に向かわせ、戦争なく平穏無事な日々を送ろうと画策している――
これがこの本の趣旨だが、自説の正しさを詳細に説き明かそうと、ヒトラーの台頭から「恥ずべき退場」までを詳細に綴る。
いま、この本の狙いの是非を論じても余り生産的ではない。だが「ソ連修正主義叛徒集団は党と国家の領導権を簒奪し、社会主義ソ連を社会帝国主義国家に変質させてしまった」の「ソ連修正主義叛徒集団」を習近平一強政権と置き換えてみたらどうだろう。
ここで急に古代ローマの歴史家であるクルチュウス・ルーフルが語ったとされる「歴史は繰り返す」を思い出した。その続きは「但し2回目は喜劇として」ではなかったかしらん。
因みに、この本は25万部出版されているが、批林批孔闘争に関連する記述は当然ながら全く見られない。
批林批孔闘争はともあれ、ここで当時の党と毛沢東思想の柱である『矛盾論』がどのように捉えられていたのか。それを記した「青年自学叢書」シリーズの1冊である『党的基礎知識』(《党的基礎知識》編写組編)と『学習《矛盾論》例選』(上海師範大学中学教学研究組選)を取り上げてみたい。共に上海人民出版社から、前書は47万4千部、後書は10万部が出版された。
四人組が国政全般に影響力を拡大し、政権を牛耳ろうと画策していた時期の出版だけに、「四人組式原理主義」とでも形容したくなる“滑稽・純粋・厳格・極端・過激・先鋭化”した考えが、行間に溢れかえっている。それもそうだろう。昨今とは全く違い「中国共産党はプロレタリア階級の政党であり、プロレタリア階級の先鋒隊である」ことが、何の疑いもなく胸を張って公言できた時代だったわけだから。
この本の内容を、以下に可能な限り忠実に要約しておきたいと思う。
――「マルクス主義においては、政党は階級闘争の産物であり、同時に階級闘争の手段」である。「一切の政党が鮮明なる階級性を具えないなどということはありえない」。そこで「世界において、これまで階級を超越した政党などありえなかっただけでなく、特定の階級の利益を代表しないような“全民党”など存在したためしはない」と政党を規定する。
そこで、「中国共産党はプロレタリア階級の政党であり、マルクス・レーニン主義の革命理論と革命の風格に拠って建設されたプロレタリア階級の先鋒隊である」と自己規定される。
「中国共産党がプロレタリア階級の政党であるということは、我が党がプロレタリア階級の特徴と優れた点を集中的に体現しているからである。プロレタリア階級は人類史において最も偉大なる階級であり、思想・政治・力量のうえからも最も強大な革命階級であり、新しい生産力の代表であり、最も先進的な経済の形式と連係している」のである。《QED》