【知道中国 2556回】                      二三・七・念八

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習222)

 

「旧社会において、プロレタリア階級は最も過酷に搾取され、深刻極まりない圧迫を余儀なくされ、一切を所有することなく、生産活動にかかわる凡ての手段を持つことを許されず、自らの肉体=労働力のみを売却することによってのみ生を維持することが可能であった」――

 以上の基本認識に基づき、青年層向けに党の指導思想、党の基本綱領と最終目的、党の基本路線、党の一元的指導、党の民主集中制、党の規律、党の三大作風、プロレタリア革命事業の後継者養成、党の基本組織の任務など14章にわたって懇切丁寧に教育するために出版されたのが『党的基礎知識』と思われる。

だが、実態はタテマエ――出来そうにない、ウソ八百満載の“超公式的見解”――の羅列と言ったところ。読み進むにしたがって腹立たしくなる。だが、「十三 入党条件と入党手続き」の章で思わず立ち止まり、考えさせられてしまった。

 当時の「我が党の性質と共産主義の実現を目指す歴史的任務から決定された」党規約では、「年齢が満18歳の中国の労働者、貧農、下層中農、革命的軍人とその他の革命分子で党の規約を認め、党の組織に参加し、その中で積極的に工作を進め、党の決議を厳格に実行し、党の規律を遵守し、党費を納める者は凡て中国共産党員になりうる」と定める。

極めて厳格な内容だとは思うが、「中国の特色を持つ社会主義」を掲げる現在の習近平一強体制下の共産党でも、この規約は有効だろうか。

 じつは共産党員は2022年年央段階で前年末比343.4万人増の9671.2万人――四捨五入して1億人。つまり共産党党員は単純計算で全国民の13~14人に1人となるようだ。未成年と高齢者の数を差し引いたら、青壮年の7~8人に1人を上回るのではないか。

 それだけの数の共産党員のなかに、「労働者、貧農、下層中農、革命的軍人とその他の革命分子」にとっての生存空間はあるのか。「党の規約を認め、党の組織に参加し、その中で積極的に工作を進め、党の決議を厳格に実行し、党の規律を遵守し、党費を納める者」が何人いるのか。ましてや「中国共産党がプロレタリア階級の政党であるということは、我が党がプロレタリア階級の特徴と優れた点を集中的に体現しているから」と胸を張ることのできる党員はいるのか。

 いや、かりに現在の1億人ほどの数の党員が「労働者、貧農、下層中農、革命的軍人とその他の革命分子」で固められ、「党の規約を認め、党の組織に参加し、その中で積極的に工作を進め、党の決議を厳格に実行し、党の規律を遵守し、党費を納める者」であり、党のトップである習近平総書記の号令以下で動き出すとしたら、それはそれでジョーダン抜きに空恐ろしいばかりだ。まあ、そんなことはないとは思いたいのだが。

 次に『学習《矛盾論》例選』(上海師範大学中学教学研究組編)に転じたい。

毛沢東が物事は内部に抱える矛盾・闘争によって発展するという考えを最初に打ち出したのは、1937年の延安における講演だった。この考えを大幅に整理し、52年になって『矛盾論』として発表した。

以後、毛沢東哲学の代表作として評価は定着するが、中嶋嶺雄は早い段階から「ソ連の哲学教科書のパクリ。レーニン式弁証法(対立物の統一)の焼き直し」と指摘していた。

さはされど文革期である。理論雑誌『紅旗』、共産党機関紙『人民日報』、解放軍機関紙『解放軍報』などには『矛盾論』を学習し日常身の回りの難問を解決した実例――いわば、如何なる難問もピタリと解決してしまう『矛盾論』の“脅威の効能”が細大漏らさずに報じられていた。そんな記事を集め、内容的に「両種の宇宙観」「矛盾の普遍性」「矛盾の特殊性」「闘争哲学の堅持」などに分類し再構成して、この本が誕生したことになる。《QED》