【知道中国 2557回】 二三・七・卅
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習223)
『学習《矛盾論》例選』を簡単に紹介するなら、四人組が推し進めた批林批孔闘争の時期、中国庶民が難解な毛沢東哲学を活学活用した成果報告といったところだろうか。
そこで、いくつかの興味深い実例を挙げておきたい。
■蛍光灯の刺激によって鴨の卵の増産に成功した例――
冬から春の季節は北京ダック用鴨の成育の好機だが、北京の鴨が冬に産む卵の量は少ないし、時にはゼロといったこともある。これでは需要に追いつかない。そこで鴨を半分に分け片方をケージに入れて飼育すると、ケージ飼育の鴨の卵の生産量は20%前後から80%にまで跳ね上がった。仔細に観察すると卵増産は蛍光灯の光によってもたらされることが判明した。
かくしてケージ内の蛍光灯の点灯時間を延長することで卵の増産を図り、鴨の大量生産に成功した。ここで『矛盾論』が持ち出され、「以上は、外因は一定の条件下では重要な作用を及ぼすものである」と結論づける。
■化学工場廃液を肥料に変質させることに成功した例――
水郷と稲作地帯に位置する化学工場が排出する廃液が、長期にわたって漁師と農民の生活を脅かしてきた。だが、「廃液・産廃物が出なければ化学工場はなりたたない」という固定観念を破るため、廃液を化学処理することによって肥料に作り変えた。これが『実践論』が説く「事物の転化を促し、革命という目的に到る弁証法」に当たる。
■反腐敗闘争において攻勢に転じて成功した例――
南京の某商店では反腐敗闘争を積極的に進めてきたが、「労働者家庭出身の従業員のなかには、世界観の改造を怠り、ブルジョワ階級の生活方式を真似し、追求し、最終的には犯罪の道に奔る者がいる」のである。
だが「闘争の中で、ブルジョワ階級と我われが青年を奪い合っていることを学んだ。階級の敵は青年を毒し堕落させようとする。これは客観条件であり、不可避であり、この世界には『紅い保険箱』などというものはありえない。青年を温かい環境に閉じ込めようとすることは不可能であり、彼らの成長にとってはマイナスに働く。
広範な青年を階級闘争の厳しい環境に置いてこそ、彼らの政治的覚悟を高めさせ、腐敗に対する能力を強固にすることができる」。これが『矛盾論』が教える「闘争哲学の堅持」である。
『学習《矛盾論》例選』で教育された世代からするなら、2023年の中国では「世界観の改造を怠り、ブルジョワ階級の生活方式を真似し、追求し、最終的には犯罪の道に奔る者がいる」。社会は「青年を毒し堕落させようとする」。だから「広範な青年を階級闘争の厳しい環境に置」こうとしても、強ち時代錯誤とは言えないだろう。その筆頭を習近平と考えるなら、習近平政権の若者政策の狙いが浮かび上がってくるようにも思える。
こうみると、やはり習近平ら紅衛兵、李強ら紅小世代――「毛沢東のよい子」たらんとした《完全毛沢東世代》が育った教育環境を振り返る試みも必要であるはずだ。
文革という極度に激しい政治闘争の時代にも拘わらず、一見して政治闘争とは全く無関係と思われる中国語(文法、発音、修辞法、文字改革など)に関する書籍が恒常的に出版されていることを再三再四にわたって指摘してきたが、1974年3月にも『漢語?音広播講座』(文字改革出版社)が出版されている。しかも奇妙なことに書名も内容も、ご丁寧にもぺージ数まで同じで『漢語?音広播講座』が香港三聯書店から出版されている。しかも当時の香港では共産党系活字メディアですら繁体字であったにも拘わらず、わざわざ全ページ簡体字であった。大多数の住民が広東語を母語とする香港で、いったい、なぜ。《QED》