【知道中国 2552回】 二三・七・廿
――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習218)
「社会主義部分」はこう続く。
――生産物の交換と貨幣の流通、国民収入の正確な配分と再配分は、国家と集団と個人の関係を正確に処理する要であり、かくして「各尽所能、按労分配(能力に応じた分配)」が可能となる。対外関係における基本は「相互援助、互通(相互の援助と融通)」で、対外的な経済援助は社会主義の国際連帯の柱であり、であればこそ社会主義の義務である――
このようなタテマエの理想論を展開した後、社会主義から共産主義への道は必然であり、共産主義は必ずや実現されなければならないという結論に至り、長大な論文の最後は「マルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想の勝利の旗を高く掲げ、全世界のプロレタリアと連帯し、全世界の抑圧された人民と圧迫された民族と手を結び、『決意し、犠牲を恐れず、万難を排し、勝利を獲得しよう!』」と、予定調和的に締められている。
以上が、中国が批林批孔に突き進んでいた時代の「政治経済学基礎知識」と言うことになるわけだ。この「政治経済学基礎知識」に立脚して習近平3期目の現在の中国を分析した場合、「マルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想の勝利の旗を高く掲げ、全世界のプロレタリアと連帯し、全世界の抑圧された人民と圧迫された民族と手を結び、『決意し、犠牲を恐れず、万難を排し、勝利を獲得しよう!』」と声高らかに胸を張れるのだろうか。
「巧言令色少なし仁」に倣うなら、まさに巧言潤色少なし真!
1974年1月に出版された書籍で、手許に残るは『歴史知識読物 封建社会一面鏡子 ――《紅楼夢》』(馮爾康 中華書局)、『新編群衆賢文』(鹿寨県江口公社《新編群衆賢文》編写組編 広西人民出版社)、『文字必須改革』(文字改革出版社)、『少年児童歌曲選 第四集』(人民文学出版社)、『推拿療法』(安徽医学院附属医院《推拿療法》編写小組編 人民衛生出版社)の5冊である。
どれもが例によって例の手法で、博引旁証と牽強付会を交錯させながらの批林批孔であり、特に取り上げることもなさそうだ。ただ『推拿療法』のみは些か色合いを異にしている。批林批孔の文字が一切見えない点に興味を惹かれるのである。
「目下、国内外における極めて有利な情勢下、医療衛生戦線では中国と西洋の医学を結びつけ、日常的に人民を悩ます多くの病気に対処しようとする大きなうねりが、全国規模で巻き起こっている」と書き出された「前言」には、多くの「革命的医療従事者」は「毛主席の革命路線の指導の下、『中国の医薬学は偉大な宝庫である。より探求に努め、医療を高めよ』の偉大な教えに従って、奮闘努力せよ」と“檄文”が掲げられている。
全162頁の小ぶりな書籍だが、毛沢東の「も」の字も見えないほどに一切の政治的言辞は除かれ、一切の器具を使わず、手と足だけを使っての治療法が明快なイラスト入りで解説されている。たしかに便利で手頃な中医解説書だとは思うが、素人には扱えないだろう。
じつは『推拿療法』の初版は大躍進の失敗が明らかになり、全国が飢餓地獄に苦しんでいた頃の1960年に出版されている。その後に版を重ね、1972年に第3版修正版が出版され、1974年1月出版は第3次出版の増刷(7刷)である。
こうみると北京や上海を拠点とするハデな批林批孔の動きとは別に、民生に力点を置いた政策が細々ながら行われていたとも考えられるが、さて甘過ぎる見方だろうか。
1974年1月出版の13冊のうち、奥付に発行部数の記載があるのは以下の3冊。
『政治経済学基礎知識(資本主義部分)』(上海人民出版社)=45万部
『新編群衆賢文』(広西人民出版社)=30万部
『推拿療法』(人民衛生出版社)=20万部(1960年の初版以来、全7刷りで累計561,400冊 《QED》